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「デザイン×IT×コミュニティ」の再構築へ向けて(1)——対談:篠原 稔和×渡辺 保史
2005年2月19日 掲載
ウェブの急激な普及とともに、定着しはじめた「情報デザイン」。
この発想と手法は、これから先どのように進展するのでしょうか?
開催目前の「DESIGN IT! PRE-CONFERENCE」は、それを問い続け、新たな実践を模索する場づくりの第一歩となります。
本会議の主催者であるソシオメディアの篠原稔和と、ジャーナリストの渡辺保史氏に、今回の会議のねらいと、今後求められる「デザイン×IT×コミュニティ」の可能性について、語ってもらいました。
異質な知恵が交流するコミュニティ
渡辺保史今回のカンファレンスの企画について篠原さんから聞かされた時、その内容や構成の幅広さと奥深さに、ずいぶんと驚きました。これだけ本格的に、僕らが「情報デザイン」と呼んでいる領域に関連する研究や実践が網羅されるような規模の大きなものは、ここ数年例がないなと思います。と同時に、これは、単にテクニカルな問題について一部の専門家だけが集まって討議する会議ではなくて、もうちょっと違った場づくりを目指しているんじゃないか、と感じたんです。なので、篠原さんにはまず、この会議のねらいをあらためてうかがってみたいのですが。
篠原稔和まったく、渡辺さんのご指摘のとおりなんです。要するに、「場」をつくりたいと思っているんですよ。異なる分野の人たちが、それぞれ今どんな境遇にあって、これから何をなすべきか、そのためにはどんな新しい方法や発想が必要なのか? 相互に発見や気づきがなされたり、ダイナミックに色々なコミュニケーションが触発されていくような… 。そういった想いをスローガンのような形で世の中に投げかけて、一種の活動体を起こしていきたいわけです。きっかけとしては、会議というイベントという形をとっていますが、その場で様々な分野から持ち寄られる知識を吸収したり、異分野の人たちが交流したり、あるいはその場を踏まえて何かメディアが生まれるということもあるだろう。一方で、すでに展開されている別の現場とも、うまくつなぎ合うようなこともできれば面白いと考えています。
渡辺「DESIGN IT!」というスローガンには、いくつかの意味が含まれてますよね?
篠原ええ。まず一つには、「ITをデザインする」という意味です。情報デザイン的な発想で社会を変えていくためには、まず日本では企業の中でちゃんと気づきが起こってほしい。そう考えた時に、我々が今まで培ってきたウェブの重要性を、もっと企業内のIT部門で認識してもらい、そこにちゃんとデザインが入っていくようにしなければならない。ウェブ関連の部門と旧来のIT部門というのは、残念ながら同じ企業内であってもひじょうに距離が遠い。本当にデザインが踏み込んでいかなければならない部分が、今はあまりコストをかけられない状態になっているんです。
また、他方で、ウェブサイトをデザインする側も、目的やタスクに即したものになってきたため、アプリケーションを込みでデザインを求められるようになってきました。なので、IT系のシステム設計で使っている技法、たとえばUMLなどの知識を身につけて、設計することとインターフェイスをデザインすることをもっと近づけないといけないというプレッシャーも出てきています。つまり、ITとデザインという距離が遠い両者を結び合わせていこう、というのが第一のねらいです。
二番目の意味は、語呂合わせ的なところもあるんですが、「IT」をあえて「イット」と読ませてしまって、「そこら中に=everywhere」「なんでも=everyone」という意味を持たせています。ITがいたるところで生活をよくしていこうとしているのが、ウェブブラウザを介して見えてくるようになっている、つまり、ユビキタスな状況が急速に進んでいますが、そこにもっとデザインの力を加えていくべきだと。
渡辺ユビキタスも、今はケータイやRFIDタグのことばかり注目されていますが、まだ完全に技術主導でデザインが不在ですもんね。
篠原その通りです。その見えにくいものと見えるものの境界にあるのが、実はウェブなんです。従って、かなり広いものに対してデザインしていきたいという思いがあるんです。
渡辺僕は最近、建築や都市のデザイナーと一緒に仕事をする機会が多いのですが、そうしたリアルな空間デザイナーの側も、情報デザインに対して大きな関心を持ち始めています。ITがユビキタス化すれば、ある意味空間のすべての存在が情報デザインの対象にもなりえるわけですよね。
篠原それから、三番目はかなり狭義の話になるんですが、ものを作る前のプロセス、言わばプレデザインという段階をもっと意識してもらいたいということ。もちろん、実際のデザインの話もしますが、その前段からしっかりと問題提起をしたいんです。実際のデザインを始める前に、「これだけ押さえていればいい」という方法論が色々と出てきているので、ちゃんと普及を図りたい。アメリカでは、そうしたプレプログラミングの領域を「IT design」とする流れも出てきているので、そういう動きにも絡めよう、と。もちろん、これまで培われてきたUCD(ユーザー中心設計)あるいはHCD(人間中心設計)の考え方もここに関連してきます。
渡辺本当に、非常に幅広く目配りしながら、同時に深みのある構成ですよね。
篠原今回行うのは、名前にあるとおりプレカンファレンスなんですが、本当のカンファレンス自体は私たちだけではなく、もっと色んな人たちが関わっていく中でつくっていきたいという思いがあります。まず今回は投げかけという意味で、この場で人が出会い、話しあって、そういう活動がやっていけるか試したいというところがあるんです。当然、ここに加わって下さる方々の背後にはそれぞれ、自分たちのコミュニティがあるので、こちらも色々なコミュニティの人々と出会いたいという想いがあります。
どうしても我々って、単一のコミュニティに所属しがちなんですよね。そこに起因する問題が多いと思うんですよ。つまり、複数のコミュニティに所属していると、そのコミュニティのいい面、悪い面を見れたりとか、客観化できたりとか、あるいはもっとそのコミュニティを大事にしようという思いが生まれてくるので、そのコミュニティ自体を多層化することが重要だと思うんです。そうすると、所属している側も、こちら側のコミュニティに属している時の自分の役割とか、あちら側のコミュニティに属している時の立場とか、自分で多層化していけるので、だんだん思いが開かれていくというか。それってもう、働き方をずっと悩んでいる頃からあったんですけど、地域のコミュニティを大事にして、会社のコミュニティも大事にするだけでも多層化されるじゃないですか。
渡辺なるほど。場づくりの話、活動体としてのヴィジョンはすごく重要な提起を含んでいますよね。結局、場さえ作れば人が集まるかというとそんなことはないし、そこでいろんなものがくっついてくるかというと全然そんなことはないですよね。人がいくつのコミュニティに所属しているか、そういう多層的なコミュニティを背負ってる人がどれだけ出会うかということが、場のポテンシャルみたいなものを規定するんじゃないかと。
篠原多層的にコミュニティを背負っている人って、違うコミュニティに出会った時の処し方がわかっている。基本的にかなりオープンなんですよね。でも、それはなかなか気づくのが難しい。だから、今回の仕掛けとして考えているのは、ゲストだけでなく聴衆としても外国の人にたくさん来てもらおうと思っているんです。英語のコミュニケーションって、話せるか話せないかに終始しがちだけど、あえて異文化の人と交わることで、ちゃんとお互いの文脈や背景を解説しあったり共有しなくてはいけない場をつくって、そこを起爆剤にしたいんです。また、カンファレンスの構成のデザインにしても、絶対ワントラックではやりたくない、と最初から描いていました。いくつかのトラックを並走して走らせて、そこに興味が違う人たちが来て、出会ってもらいたい。たとえば、デザインマネジメントの方がアクセシビリティの方と出会うとか、自治体の事例を紹介する人が企業の事例を知る方と出会うという具合に。
渡辺往々にして、ある成功体験は、ごく一部の企業だけのサクセスストーリーに語られがちですよね。「あそこだからできるんだよ」みたいに受け止められてしまう。でも、情報デザイン的にいえば、その特殊解に含まれている、汎用できそうな「やり方」をうまく取りだして、道具にしていくことが大事です。だから、色んな分野の方々が自分たちの知恵や経験のピースを寄せ合って、シェアできるといいですね。(つづく)
- 渡辺保史
- 情報デザインをめぐるプランニング・ディレクション・ライティングに従事。智財創造ラボ・シニアフェロー、武蔵野美術大学デザイン情報学科非常勤講師。http://www.nextdesign.jp/
- 篠原稔和
- ソシオメディア(株)代表取締役。自ら情報デザインのコンサルタントとして、情報デザインやユーザビリティ、ユーザー中心設計の各種手法等を実践している。多摩美術大学、武蔵野美術大学の各非常勤講師を歴任。 http://www.sociomedia.co.jp/
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