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「デザイン×IT×コミュニティ」の再構築へ向けて(2)——対談:篠原 稔和×渡辺 保史
2005年2月21日 掲載
社会実験のフィールドとしてのウェブ
渡辺さて、少し会議そのものから離れて、情報デザイン的な考え方とコミュニティという問題に少し踏み込みましょうか。ウェブはこの10年間にわたって、情報デザインの社会実験のフィールドとして機能してきました。ですが、もう実験段階を超えて、一歩進んだフェイズへと突入してきました。そうした状況において、一体何が必要なのか? 篠原さんと僕の認識を確認した上で、これからの課題について語ってみたいと思います。
篠原1990年代の半ばまで、情報デザインといえば適用分野がもっぱら紙メディアなどごく一部に限られていましたけど、ウェブが普及したことによって、情報デザインの知識や活動がそのまま反映できるようになった。その意味では、僕はウェブは実験場という以上に、情報デザインをそのまま体現し、その可能性を見えやすくする場だったのでは、と思っています。そして、ウェブが今や社会にとって欠かせない道具として機能しているが故に、情報デザイン的なスキルも社会のあちこちで欠かせないものになっていきているのではないでしょうか。
渡辺僕の考え方の基本は、情報デザインが引き受けなくてはいけない世界は、デジタルな情報空間だけではなくて、リアルでフィジカルな人間の活動そのものであるということです。4年前に『情報デザイン入門』(平凡社新書)を書いたことで、その糸口は見つけたつもりだったんですが、今はますますその実感が強くなっています。篠原さんは、ビジネスの世界を対象に、ウェブをデジタルな道具としてちゃんと使い込んでいくための環境づくりをやってこられて、一方で僕はもう少し“地べたの”人間の活動に肉薄して、地域での情報デザインプロジェクトをやったり、まちづくりのワークショップをやったりと、実践志向でやってきました。でも、お互いやってきたことには、少なからぬ共通項があると感じています。とはいえ、まだデザイナーも含めて多くの人は、そこは切れているものだという認識が強いみたいです。
篠原実は、ビジネスの分野でも、同じような分断というか壁を感じますよ。企業内でウェブについて情報デザイン的な考え方を説明する時にも、受け入れてくれる人はまだほんの一握りです。厄介なもの、専門的に特化したものではなく、便利なもの、活用できるものとして紹介していかないと、本当に広がっていきませんね。僕としては、今や専門家だけに向けて専門的なサービスをする時代はもう終わったんじゃないかと痛感します。情報デザインの専門的なサービス自体を、専門家でない人でも使える道具にしなければならない時期にさしかかっています。
渡辺それは本当に重要な視点ですね。多くの人は、デザイナーを「つくる」専門家だとみんな思っているけど、実はその前後にもっと豊かな経験知が隠れている。だから、デザイナーのワークスタイル自体変えていかなくちゃいけないし、デザイナーだと思われていない人も実はデザイナーの側面を持っているわけですしね。
誰もが使える道具をつくる
篠原今のウェブは、特定の利用者が、特定の目的を持って使うものになってきて、誰に対して、どういう目的を達成させるための道具なのかを明確にしないと成立しなくなってきています。 それにどう対処するかを考えると、たとえば僕らの会社でいえば、専門家がユーザビリティの診断をしますよ、ということでビジネスを展開してきたわけですが、それだけでは足りなくなってきた。最近では、たとえばW3Cなどの標準化活動との関係性などを踏まえながら、世の中における情報デザイン的なメジャーメントを、わかりやすく伝えなければならないというところに、かなり力を注ぐようになってきました。
渡辺それは、ウェブが最近、構造と内容を分けてデザインできるようになって、ビジネスなど組織やコミュニティの現場で使い込めるようになったことと、すごくシンクロしているような気がしますね。デザイニングというのは本来、人に使われるもの、消費できるものを作ること以上に、世の中の人が自ら使い込める道具を作り出せるためのメジャー、つまりは物差しとか、眼鏡とか、枠組みとか、そういったものを送りだすことに意義があるように思うんです。ソシオメディアで篠原さんがやっているのは、おそらくそういう意味での本質的なデザインニングなのかな、と。
篠原もしかすると、こうした枠組みづくりの作業は別に情報デザインと言わなくてもいいかもしれないと思うんです。
渡辺同感です。情報デザインという言葉を便宜上ずっと使ってきましたが、ここで議論していることを包括するには、もっと別のラベルが必要かもしれない。いずれにしても、情報を基軸にした次世代のデザインについて、経営組織やコミュニティで仕事をする多くの人が気づいていく必要がありますね。
篠原ソシオメディアでは、ウェブを捉えるときに、「5つのビュー」というものを軸にしています。まず、ウェブの専門家の人たちがマスターしてきた3つのビューがあります。つまり、情報アーキテクチャ、インタラクション、アクセシビリティです。実は、その上にさらに2つのレイヤーがあるんです。まずは、コンテンツ。ウェブを使う人にとってわかりやすいコンテンツとはどういう形態、語り口なのか。コンテンツ自体はサイクリックにずっと存在し続けるものではないので、場合によってはリフレッシュしなければなりません。コンテンツ自体をどうマネジメントしていくかということを理解しなければならないんです。そして最後に、コンテンツも含めた4つのビューをどうやって組織体に必要なものにしていくかという点で、デザインマネジメントという視点が重要になります。
最初にあげた3つのレイヤーというのは、ウェブデザイナーを含めた現場の専門家の方々がちゃんと理解して改善できるようになると、器自体としてはかなりよくなります。ただ、コンテンツやデザインマネジメントという部分は、専門家だけでは、いかんともしがたい。経営者がメディアとしてのウェブを捉え直したり、コンテンツを管理する方々がジャッジできないと、せっかくいい器ができたとしても、いい道具としては定着しません。経営者やマネージャーを説得できるスキルを持つ必要があるけれど、説得だけの軸ではなく、上の人に「そうか、君たちはそんな大事なコトをやってたのか」と気づいてもらわなければならない。いいプロジェクトか、悪いプロジェクトというのは、その辺の上の方と専門家の方の連動いかんなんだと思います。現場の専門家と経営レイヤーの人との間での共有や連携が、本当に必要です。
渡辺今までは、「上の人が理解しないから現場が苦労して、潰される」というのが、最悪の、でもありがちなパターンでしたね。しかし、経営レベルの人たちがちゃんと判断してくれれば、現場レベルの活動をちゃんと引き上げてくれる。そういうことのためにこそ、情報デザイン的な発想がちゃんとメッセージとして届くことは重要だと思いますね。
篠原渡辺さんが、情報デザイン分野の書き手として、平易な語り口調でわかりやすく書いてくださることで、経営レベルの人たちから見れば、「そうか、自分がやっているこういうことが、デジタルの中で生きるのか」という気づきにつながるような循環が起きていると思うんです。確か、今度の本はビジネス書の形で出されるんでしょう?
渡辺ええ。今度出す本(『創造するコミュニティ』平凡社より今春刊行予定)では、情報デザインという言葉はあまり前面に出てきません。企業に限らずあちこちの仕事の現場をコミュニティとして捉え直して、そこをよくしていくための方法を学んでいこう、というのがキーメッセージです。コミュニティのために使える概念的な道具をいっぱい用意した、ある種のカタログです。情報デザインという言葉では専門性が高すぎるとしたら、もっと一人ひとりの現場性に根ざしたものにして、それぞれの現場で役に立てるようにしようと考えたわけです。
かつては、企業にとって「環境」というファクターに対応することは、対処するには非常にコストがかかって厄介なものだと捉えられてきた時期がありましたよね。でも、今では環境に配慮することが最終的にはベネフィットになるし、社会的な意義もあるということで「常識」として定着した。おそらく、情報デザインやコミュニティについての考え方も同じように、2010年くらいまでの間には当たり前になるんだと思っています。逆に言うと、今はウェブデザイナーのように専門性の高い人たちと、それ以外の経営組織やコミュニティの人たちが、情報デザイン的な考え方をしっかりと共有し始めるスタートの時期なのではないかな、と。その意味で、今回の「DESIGN IT! PRE-CONFERENCE」は大きな試金石になるのではないでしょうか。
篠原はい、すでに欧米やアジアの企業では、デザインを経営と直結する問題として捉えているところが増えてきました。ITとデザインの融合による新しいアプローチが、経営をどう変えていくのか、ポジティブな姿勢で取り組む組織やコミュニティが、今回をきっかけにして、どんどんつながっていって欲しいと思っています。
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