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DESIGN IT! Pre-Conference 2005 レポート

2006年2月28日 掲載

by Marisa Manheim

イントロダクション

DESIGN IT! Pre-Conference 2005 の要旨

「DESIGN IT! Pre-Conference 2005」は、2005年2月28日から3月1日まで開催された3日間のイベントです。多くの参加者の方々が気づかれたように、カンファレンスのタイトルにあるITの文字には、日本で急速に発展しつつあるIT(情報技術)産業、そしてユーザーに支持されるインタラクティブな製品を作る際のデザインの重要性、というふたつの意味が込められていました。この二重の意味により、本カンファレンスにインタラクティブ・テクノロジーの分野について多くの視点を盛り込むことが可能になりました。

講演は28セッションあり、以下6つのテーマに分割されました:デザインマネジメント、コンテンツマネジメント、インタクラクション、情報アーキテクチャ、アクセシビリティ、ストラテジー。加えて、各日程は2つの基調講演で始まり、パネルディスカッションで締めくくられました。基調講演、パネルディスカッション、メインホールでの全講演を以下に要約します。

メインホールでの講演

[Pre Keynote 1 (プレ基調講演 1)] 人生とキャリアに影響力のあるデザイン

(スタンフォード大学 パースエーシブ・テクノロジー研究所所長 B・J・フォグ)

カンファレンスの幕開けとして、B・J・フォグ氏は、参加者のみなさんにモチベーションとインスピレーションをもたらすことを目指した講演を行い、キャリア上、および個人的な目標に向かって努力する際に役立つと考える「シリコンバレー」の原則を数多く紹介しました。自身の人生から例をあげて、リスクを取ること、失敗から立ち直ること、専門化(スペシャリゼーション)、正しく認識することの利点について説明しました。さらに、「勢い・はずみ(momentum)」、「指導(mentoring)」、「実現すること(make it happen)」の3要素から構成される「Star-M3」メソッドについても紹介しました。講演の最後には、「実現すること」の例としてステージ上で逆立ちを披露し、あっと言わせる驚きの瞬間をフォグ氏自身が実演して見せました。

[Pre Keynote 2 (プレ基調講演 2)]  ウェブ開発チームを成功へと導く9つのカギ

(アダプティブ・パス ジェシー・ジェームス・ギャレット)

本公演においてギャレット氏は、インタラクションデザインに関わる人々とプロセスを議論するための具体的な用語を提供し、自身が開発した図式「ユーザーエクスペリエンスを構成する要素」の歴史を紹介しました。また、新たに作成した図式「ウェブ開発チームを成功へと導く9つのカギ」について詳細な説明を行いました。この9つのカギは、9つの特定の資質がどのように効果的に統合され、ウェブサイトのデザイン開発を成功に導くことが可能かを示しています。この図式はまた、ユーザーリサーチに根ざしたデザインプロセスを表現しています。ユーザーリサーチは長期的なサイト・ストラテジーついての情報源となり、そのストラテジーを促進するユーザーインターフェースを作ることが可能になります。

[Keynote 2・IA-1]  ユーザーエクスペリエンスを構成する要素

(アダプティブ・パス ジェシー・ジェームス・ギャレット)

本カンファレンスでの2つ目の講演として、ギャレット氏は、自身が開発した図式「ユーザーエクスペリエンスを構成する要素」を実際のサイト・デザインにどうやって反映させるのかについて、例を用いて説明しました。まず、ある1ページの骨格構造(Skeleton Structure)を特定する方法を示し、そこから後ろ向きに、図式の各要素をデザインの各側面へとリンクしつつ、サイト・アーキテクチャを解説していきました。旅行ウェブサイトorbitz.comを例として取り上げ、サイト・ストラテジーがどのように意志決定の情報として役立ち、そして結果として統合された視覚的・機能的インターフェースデザインができるのかを説明しました。

[CM-1] ウェブ・コンテンツマネジメント・テクノロジー入門

(CMSワークス 代表取締役 トニー・バーン)

本公演でトニー・バーン氏は、コンテンツマネジメント・システム(CMS)について紹介しました。バーン氏は、複数のユーザーがコンテンツを執筆、分類、更新することを可能にするコンテンツマネジメント・ソフトウェアについて、考慮すべき点と成功事例を解説しました。また、飽和状態になったCMS市場の分析結果を紹介し、聴衆の中のCMS購入者へ向けて役立つアドバイスを提供しました。

[CM-2]  ブログと参加型カルチャーの高まり

(『ウェブログ・ハンドブック』著者 レベッカ・ブラッド)

本公演でレベッカ・ブラッド氏はブログの歴史を紹介しました。マニュアル・コードを用いた公開日記をブログの歴史の始まりとし、「ブロッギング」が一般用語の仲間入りをするのに貢献した今日のウェブ・パブリッシュツールまでの歴史を辿ってみせました。ブラッド氏は、ブロッガーはウェブ上の膨大な情報をろ過し、見過ごされたニュースを公開することで、伝統的なジャーナリズムの水準を上げていると主張しました。ブログと、コミュニティにより維持される情報源であるウィキは、ブラッド氏が「参加型メディア」と呼ぶ、ウェブに基礎を置く新しいかたちの情報文化の例と言えます。

[DM-1] 先端のデザイン

(名古屋市立大学大学院 教授 川崎 和男)

本公演で川崎和男氏は、一般消費者向けエレクトロニクスから人工臓器に至る自身の産業デザインのポートフォリオについて概観を説明しました。川崎氏は、「デザイン」を意味する漢字は、コンテクスト—ユーザーを取り巻き、「アイディア・思考・デザイン」のデザインプロセスの基盤を形成する—の重要性を十分には伝えきれないと言います。これら3段階のすべてにおいてコンテクストが考慮されるようにするため、川崎氏は「寛容 generous」と「考慮 consideration」を意味する文字を組み合わせて「デザイン」を表現することを提案しました。

[Keynote 3]  ソシオメディアとITに関する未来展望

(マサチューセッツ工科大学 教授 エドワード・バレット)

バレット氏の基調講演では、様々な話題についてのリラックスしたディスカッションを篠原(ソシオメディア株式会社代表)と行いました。その中では、ソシオメディアという用語の創造・発達についての解説もありました。ソシオメディアは篠原が自身のコンサルティング会社の名前として採用しています。バレット氏はまた、テクノロジーは人間の思考と社会構造をつなぐ「ちらかった、自然なネットワーク」を可能にすべきだという信念について議論し、さらにこのアイディアをマサチューセッツ工科大学で研究中の非線形ストーリーテリング・ツールと教育的ゲームデザインに、どのように適用しているかを説明しました。

[Keynote 4]  製品とサービスに影響力のあるデザイン

(スタンフォード大学 パースエーシブ・テクノロジー研究所所長 B・J・フォグ)

B・J・フォグ氏による2つ目の講演では、スタンフォード大学パースエーシブ・テクノロジー研究所で行われている、パースエーシブ(説得)ツールの改善を目的とした研究の概要が紹介されました。フォグ氏は、効果的なパースエーシブ・テクノロジーの特性と利点をいくつかあげ、最も成功を収めているストラテジーについて概説しました。また、パースエーシブ・テクノロジーについて倫理的に考慮すべき点についても触れました。最後に日米のユーザー比較研究の結果に触れ、効果的なパースエーシブ・テクニックは必ずしも文化を越えて翻訳可能ではないことに言及しました。

[A-2]  ユーザー中心デザインとアクセシビリティ –ユーザーインクルージョンというコンセプトへの拡張-

(パチェロ・グループ 代表 マイケル・G・パチェロ)

アクセシブルなソフトウェアデザインをテーマとした本講演で、マイケル・パチェロ氏が指摘したのは、障害のあるユーザーにとってアクセシブルであるようにデザインされた技術は、すべてのユーザーにとってもよりアクセシブルであること、さらに高齢者や読み書きに不自由のあるユーザーといった別のユーザーグループへのアクセスを新たに開発する可能性すらあるということでした。コンテンツマネジメント・システムについては、障害のあるユーザーはエンドユーザーであるのみではなく、ソフトウェアのインストールとメンテナンスに関わっている可能性も指摘しました。少し作業を加えるだけで障害のあるユーザーは製品デザインプロセスのメインストリームに加わることができ、そこにはコストに見合う以上の利益があるという議論がなされました。

[DM-2]  アドビにおけるユーザーエクスペリエンス・マネジメント

(アドビシステムズ ジャーマン・バウアー、リン・シェード)

ジャーマン・バウアー氏は、大企業でのユーザビリティチームが直面する問題について紹介しました。バウアー氏は、デザインとユーザビリティーの価値についてアドビ社内の啓蒙に尽力し、アドビが「発送前に直す」メンタリティーから「作成前に直す」メンタリティーへと変容するのに貢献しました。バウアー氏は大企業においてユーザビリティとデザインを促進するための多くの情報や秘訣を提供しました。バウアー氏は、地域依存の製品開発を始めたアドビが直面している問題についても紹介しました。

[I-2] インタラクションデザインがもたらすパワー

(調査・デザインコンサルタント マーク・レティグ)

本講演でマーク・レティグ氏は、インタラクションデザインにおいてユーザーリサーチデータを効率よく利用する方法について説明しました。レティグ氏の考えによれば、デザインとは、製造コストから組織の目的、ユーザーのニーズに至るまで、多くの影響を捉えようと努力するプロセスの繰り返しであると言えます。レティグ氏は、ユーザーのニーズに応えた製品を作るために、リサーチデータを活用しやすい情報に変換する多くのテクニックを紹介しました。また、このアイディアが実際のデザインの問題にどのように応用されるのかを3つのケーススタディを用いて説明し、さらに、ユーザーリサーチについての認識や取り組みを促進するチーム育成のストラテジーを数多く紹介しました。


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