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CMS Watch : ECM は過去の遺物——ECM に栄光あれ! /衰退する ECM

2006年4月 1日 掲載

アラン・ペルツ=シャープ

大企業の間には、平均的な社員が日々直面する大量の情報処理を助けてくれるようなソリューションに対する渇望がある。会社のトップは、それと同じぐらい強力なニーズを、コンプライアンスの要件に対しても抱いている。この2つの要因が一緒になって、ECM (エンタープライズコンテンツマネジメント)の世界には、大きな追い風が吹いている。

しかし一方で、この2つのトレンドは、新しい問題も作り出してきた。表面から見るかぎり解決は容易ではないと思えるこれらの問題を挙げるとすれば、以下のような点がある。

しかし、すべてが敗北してしまったわけではない。この記事で私が言いたいのは、真の ECM とはプロセスや標準にまつわる努力であって、テクノロジーはあまり関係ないということだ。そして、これらのプロセスを企業が整理していくにつれて、結局は新しいタイプのツールやシステムが必要になっていくかもしれない、ということも説明していきたい。

見方の変化

ユーザが主導する新しい(そして洗練された)市場が出現しつつあることが、最近になって分かってきた。コンテンツを新しい角度から眺め、これまでのベンダーとは何か違ったものを求める市場が、浮上しているのだ。

ドキュメントマネジメントやウェブコンテンツマネジメントの分野を現在牛耳っているベンダーは、私に言わせれば、たいていが「ポイントソリューション」のベンダーだ。つまり、非常に限定的なビジネスコンテンツについて、非常に限定的なサービスだけを提供している。しかし、今やコンテンツの圧倒的なボリュームが、私たちや私たちのネットワーク、ストレージシステムに襲いかかり、見方を変えることを余儀なくしている。つまり、増え続ける一方のコンテンツというものを、もっと大局的にとらえ、私たちのビジネスや仕事生活全体にどんな影響を与えるかを、見つめ直さなければならなくなっている。

IT部門とって、コンテンツは、いくつかの明らかなタイプに分けられる。構造化コンテンツ、非構造化コンテンツ、半構造化コンテンツ、Eメール、リッチメディア、それ以外、などだ。しかし、エンドユーザにしてみれば、これらは単にすべて情報というにすぎない。そして、今の段階ではこれをイメージするのがどんなに難しいとしても、ゆくゆくは、すべてが文脈の中で管理されなければならない。これは、1つの製品を中心に据えて企業を統一しなければならないという意味ではない。すべてのコンテンツに対して、もっとシリアスなアプローチが必要という意味だ。

現在の姿

これからどこへ向かっていくのかを理解するには、まず、今どこにいるのかを理解する必要があるだろう。現在、私たちは、Documentum、IBM、FileNet といった従来の大手が、歴史上でも最大規模となる取引をまとめるのを目撃しようとしている。これらの案件は、非常に強力で的の絞れたドキュメントマネジメントやコンテンツマネジメントの機能を、企業全体にわたって導入しようというものだ。ほとんどとは言えないまでも、多くの場合、こうした大型案件は、実のところ統合のプロセスとなっていて、自社のレポジトリやその他の既存のレポジトリ(Hummingbird、Open Text、Vignette など二線級のベンダーの製品であることが多い)が持っている複数のインスタンスを編み合わせて、1つの標準アーキテクチャ、または中央化されたレポジトリにまとめあげることに専念している。そして、ECM の機能を社内のすべての人に実際に行き渡らせようとするプロジェクトとは、大きく異なっている。

さらに、この統合の動きと並行して、IT部門のコントロール外で有機的な成長が起きつつあるのも確かだ。この成長は、自分たちのコンテンツをどうにかして整理・管理したいと考える、現場の知的労働者のニーズや欲求にけん引されている。こうした流れは、SharePoint が驚くべき速度で導入件数を増加したこと、Xerox Docushare が相変わらず好調に推移していること(導入件数は4500件で、なおも増え続けている)、80:20 Software が引き続き強さを見せていること、そして Oracle が10 g Content Services (「その他大勢のためのコンテンツマネジメント」)を投入したことなどに表れている。これらはすべて、Gartner が「ECM Lite」と呼ぶカテゴリーの製品だ。

コンテンツの価値は同じか?

さらに言うならば、ECM の「E」は、次の2つの意味(互換性はある)を持つようになりつつある。

  1. 「エンタープライズ」全体にわたって、コアなビジネスドキュメントの部分集合を包含しながら、高いレベルで統合された ECM
  2. 企業内の「エブリワン」を巻き込んだ ECM

では、この2種類のコンテンツは、同じだけの価値を持ったものなのだろうか? それはもちろん、場合によって異なる。しかし、どちらに対しても何らかのかたちで対応しなければならないのは確かだ。

2つのコンテンツがどれだけ価値があると思うかは、考える人の立場によっても異なってくるかもしれない。CIO をはじめ、「エンタープライズ」の外套をまとった人にしてみれば、コンテンツマネジメントとは、コンプライアンスと統合にほかならない。知的労働者にしてみれば、コンテンツマネジメントとは、プロジェクトや業務にまつわるものを整理したり見つけたりするためのものだ。これゆえに、SharePoint のほとんど信じられないような成長ぶりは、特定の情報を整理したり見つけたりできるという意味で恩恵を受ける現場レベルの社員たちによって支えられることになる。けれども、たいていの場合、このアプローチはいずれ、それらのコンテンツを「仮想サイロ」に捨て置くだけ、ということを意味するようになる。この2つの視点を完全に統合できるのかどうかは、議論が分かれるところだが、私自身は、成功する企業であれば、SharePoint のようなシステムに対して、利用条件として最低レベルのコントロールを介入させる方法を見つけるだろうと思っている。

だが、そもそもなぜ、最低レベルのコントロールが必要なのか? 不慣れな一般大衆(私もこの中に入る)が独自の ECM ソリューションを導入しようとするのは、コンプライアンスを考えた場合、必ずしも良いことではない。コンプライアンスは、公開企業であれ非公開企業であれ、大企業であれ中小企業であれ、そして好むと好まざるとにかかわらず、すべての企業にとって非常に重要だ。サーベンス・オクスリー法(米国企業改革法)があるからというだけでなく、HIPPA 法(医療保険の携行性と責任に関する法律)やデータプライバシー法にもかかわり、さらには、ビジネス情報の維持や使用にかかわる会計・法務の基本的な規範でもある。にもかかわらず、実際のところ多くの企業では、公に言っているほどはコンプライアンスのことを気にしていない。あるいは、より正確を期して言うならば、企業は自社のITシステムのこの点における能力を大幅に買いかぶっていて、しばしば、監査が実際にやってきたのを受けて、初めて現実を思い知らされているのではないかと、私は思っている。

現実的な記録管理とは?

机上の話をするならば、記録管理を手がける業界は、企業が直面するコンプライアンスの課題すべてに対して、答えを持ち合わせているはずだ。しかし、作成され配信されるコンテンツが膨大な量に上っていることから、伝統的な記録管理の方法論は、抜本的なところで壁に直面している。その対応として、多くのベンダーは、自社の製品を「記録管理」ではなく「保存」という呼び名に変えるようになった。「保存」という言葉であれば、様々なコンテンツの塊をライフサイクルのプロトコルで包み込み、何をいつまで保存し、いつになったら破棄・破壊するのかを詳細に示すだけのことを意味するためだ。これらはすべて、基本的なデータガバナンスやグッドマネジメントの基本プロセスとなる。しかし、あるべき姿の記録管理システムがやってくれるような、特定レコードを登録して、後で取り出せるようにするシステムは実現しない。

現在出回っている数多くのいわゆる「コンプライアンス」ソフトウェア製品には、「保存」という言葉のほうがより正確な言い方であることは、疑いの余地がない。実際、一般にコンプライアンス・ツールは、特定のドキュメントやデータに対して、あらかじめ定義した基本的な保存スケジュールをもたらしてくれるにすぎない。記録管理業務のコンポーネントにはなり得るし、法規制の遵守も支えてくれるが、ツール自体が自動的にコンプライアンスを約束してくれるわけではないのだ。それを達成するには、コンプライアンスの風土、すなわち、関係する法規制の義務を深いレベルで理解し、手順をひとつひとつクリアに踏んでいくことが必要になる。コンプライアンスを金で買おうと思うなら、唯一の方法は、監査に賄賂を贈るしかないだろう。

正直なところ、記録管理に金を費やそうなどという企業はほとんどない。企業内を飛び回るコンテンツのボリュームに対応するために、予算を今の10倍かそれ以上に増やそうなどという考えは、まず実現しそうもない。かなり希釈して簡略化したアプローチ、つまり、基本的ではあるがそこそこ効果的な保存のための構造というほうが、支持される可能性は高いだろう。とりわけ、企業から紙が消え失せることはなく、EメールやIMもやはり大問題であり、そんななかでもなお、法的に定められたライフサイクルをマネージする何らかの方法が必要だ、という現実を企業が認識しはじめている今、その可能性は高い。形式的な記録管理ではないが、それでも、「作る、使う、忘れる」という現在の典型的なモデルよりはましだろう。

おわりに

今現在、ほとんどの企業は、自社内のコンテンツフローを調査することに、ほとんど、あるいはまったく時間を割いていない。その代わり、ソリューションを提供してくれる既存の ECM ベンダーをあたっている。そして、これらの ECM プロジェクトは、あまりにも複雑でコストが高いため、最初に計画したとおりにスケールアウトしていくことが、めったにない。ソリューションの登場に待ちくたびれた一般的な情報労働者は、自分で独自のソリューションを見つける結果となり、企業のコンプライアンス問題を、故意にではないとしても急速に拡大させている。

ECM 市場は、現に変わりつつあり、多くのベンダーは、この変化をはっきりと感じ取っている。そして、自らのポジショニングを正確に見つめ直して、コンテンツ中心のインフラの上で勝負する狭い範囲のビジネスアプリケーション企業、という位置づけを打ち出している。多くの場合、これらのベンダーは、データベースを手がける企業が将来的にはレポジトリを持つようになると予想しているが、実際、この予想は正しいだろう。しかし、データベースベンダーは、コンテンツをマネージすることにかけて、すべての答えを持っていないし、経験もきわめて乏しい。まして、基本プロセスや記録管理の課題という点では、まるでおぼつかないのが現実だ。

短期的な視点から、大企業にベストのアドバイスを送るとすれば、会社全体にわたるレベルで真剣なコンテンツ分析に着手し、なおかつ、1社の ECM ベンダーがほしい時にいつでも答えを提供してくれるという、魅力的ではあるが危険な結論を導かないようにすることだ。ローコスト、あるいはノーコストのドキュメントマネジメントツールが、会社全体にわたる一般社員の基本的かつ大規模なニーズをうまく満たしてくれることも、十分にあり得る。

アラン・ペルツ=シャープは、製品戦略およびアーキテクチャ・コンサルティングを手がける Wipro の主任ストラテジストとして働いている。前職では、業界分析を手がける Ovum の北米担当バイスプレジデントを務めたこともあり、ドキュメントマネジメント、ウェブコンテンツマネジメントの世界では17年のキャリアを重ねてきた。ドキュメントマネジメント、ウェブマネジメント、記録管理といったトピックで、数多くの記事や論文を執筆し、世界各地のイベントで講演した経験も持っている。

この記事の原文「 ECM is dead - long live ECM!」は、2006年3月1日、「cmswatch.com」に掲載された。

本サイトに掲載している CMS Watch の記事は、CMSWatch.com より許可を得て、翻訳・転載しているものです。

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