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DESIGN IT! 2005から2006へ——ふりかえりと今後の展望
2006年4月 8日 掲載
プレカンファレンスから、本格始動へ。
「DESIGN IT!」が掲げるITとデザインの融合はどのような知見をもたらすのか?
主催者である篠原稔和が、前回のからの流れを踏まえて、今回のカンファレンスの狙いを語る。
ITとデザイン、互いの知見をクロスさせる
——「DESIGN IT! Pre-Conference 2005」から一年がたち、遂に「Pre」ではなく本格的なカンファレンスとして「DESIGN IT! 2006 Conference Spring」が開催されます。まずは、一年たって前回のカンファレンスをふりかえってみて、主催者としてどのように自己評価されていますか。
篠原 ITとデザインの融合を目指す場づくりを目指して取り組んだわけですが、参加された方々からは「新しいテーマ領域を追う新しいタイプのイベント」として好意的に受け止めていただけたのではないかと、全般的には評価しています。ITとデザインをつなぐ上で欠かすことのできない領域について、海外と国内の最新動向を、同時に発信することができたのは大きな収穫だったといえるでしょう。
そうした動向の真っ只中にいる第一線で活躍するゲストスピーカーから発せられるメッセージは、単に新しい手法や技術や事例の紹介というだけではありませんでした。明言する、しないに関わらず、各セッションの根底には「人、ユーザー、チーム、現場を中心に据えてプロジェクトを行うこと」というメッセージが共通してあって、それは領域を超えた深い部分でつながっていたのではないか。つまり、ITとデザインを結びつける際には、何よりも使う人とそのコンテクストの中にどう定着させるかをまず考えることが前提だということです。このメッセージは前回のカンファレンスで初めて発信されたものではありませんが、IT系とデザイン系それぞれの領域に対して互いの知見をクロスさせて投げかけるという効果はかなりあったと思っています。
——前回のカンファレンスで一番印象的だったのは、初日のセッションに登場したB・J・フォグさんとJ・J・ギャレットさんが、それぞれの立場から「ワークスタイル」をめぐって非常に本質的な問題提起をされていたことです。ITとデザインの融合領域でプロジェクトを成功に導いていくためには、まずはそれに関わる人々自身の仕事のあり方自体を変えねばならない、そんな基調メッセージが発せられたことに大変興味を抱きました。
篠原 フォグさんとギャレットさんは実は初対面だったのですが、このカンファレンスでだいぶ意気投合して、米国で交流し始めたという後日談をうかがっています。このお二人をはじめとして、海外ゲストからの新しい知見には、デザイン系の参加者から随分と刺激になったというご意見をいただいています。関連するテーマ領域でそれぞれ発信源となっているキーパーソンが直接語りかけることで、ウェブや書物では伝わらないリアリティを感じることができたのではないでしょうか。
また、IT系の参加者からは、ウェブの世界で培われてきた情報アーキテクチャやインタラクションデザイン、ユーザー中心設計という流れを全体的に押さえることができたと、これもまた高い評価をいただくことができました。ITとデザイン、それぞれの立場からお互いの知見を凝縮したかたちで知ることができて、まさに私たちが意図していたような、領域をクロスすることの重要性に多くの方々に気づいていただくことができたのは嬉しい限りです。
ユビキタスなメディア環境が生活へ広がりつつある
——前回のイベントが契機となって、色々な動きも起こってきたそうですね。
篠原 そうなんです。国内ゲストの方々の発表のいくつかは、その後関連する雑誌媒体の連載記事や出版物につながっていきました。また、実際に商談に結びついた例もいくつもあるとうかがっています。そういう意味では、各セッションから発信される知見を参加者に持ち帰っていただくという以上に、そこで出会った皆さんの新しい関係やアウトプットにも発展していったということができます。
——前回のゲストだったギャレットさんが「Ajax」の名付け親として注目されましたが、Ajax の浸透をはじめこの一年でウェブの世界は特に大きな変化がありましたね。
篠原 ええ、本当に大きな変化が今もまさに続いていると思います。ウェブシステムやウェブサービスとレガシー系のITが融合して、ユーザーエクスペリエンスを中心に据えて人に役立つシステムをつくっていこうという傾向は、この一年ほどの間にますます強まってきたのではないでしょうか。Ajax をはじめ、新しい動向は「Web2.0」という言葉に集約されるようになってきました。梅田望夫さんの『ウェブ進化論』がベストセラーになっていますが、そこで「あちら側」と「こちら側」という印象的な区分がなされているように、インターネット関連の新しい技術やシステムの進展が非常に早くなり、捉えづらくなってきた印象もあります。それは裏返すと、あちら側=ウェブの世界で起こっている変化が急速にこちら側=生活の世界に広がりつつあって、文字通りユビキタスなメディア環境が進展していることを物語ってもいるのではないでしょうか。
——数年前から徐々に広まり出したブログが勃興して、「誰もがサイトを持って自由自在に情報発信する」という本来インターネットが潜在させていた可能性が現実のものになったことで、社会の意識もかなりレベルが揃ったというか、多くの人がスタートラインに立った感じがしますね。その一方で、ユビキタスが進展しているものの、まだIT系の知見が先行し過ぎていてデザインの力がそこに加わっていかないと、社会に定着するものにはなっていかないようにも思います。
篠原 はい、本当にそう思います。だからこそ、「DESIGN IT!」のテーマがこれから真価を問われるのだと、期待もしつつ気を引き締めてもいるところです。
3つのテーマに絞ったカンファレンスの構成
——さて、今回のカンファレンスについてうかがっていきます。前回は「DESIGN IT!」に関連するテーマ領域全体を捉えてみる大掛かりなものでしたが、今回はテーマを絞り込んでいますよね。その意図についてうかがいたいのですが。
篠原 昨年の Pre-Conference では、私たちが掲げた6つのテーマ領域を見渡してみたわけですが、そこで課題として浮かび上がってきたのは、それぞれのテーマをしっかりと受け止めて、そこを掘り下げていくということでした。ただ、その場合も一つのテーマを単独で取り上げるのではなく、中心になるテーマとそれに密接に関わるものをセットにして設定することが大切だと考えました。ある領域に絞って議論を展開することで、他の領域から見てそこに別の知見を導入するということも可能になるからです。それで今回は、6つのテーマのうち「コンテンツマネジメント」を中心にして、関連する「インタラクション(デザイン)」そして「情報アーキテクチャ」という3つのテーマにに絞ってセッションを構成しています。
中心となるテーマの「コンテンツマネジメント」ですが、前回はカンファレンスの主軸の中に関連するセッションを配置したのに加えて、CMS ベンダーの皆さんから最新の製品動向について発表していただくスポンサートラックも設定しました。こうした中で、企業などが組織の内外にあるコンテンツ資源を最大限に活用していくためのコンテンツマネジメントの発想にはかなり関心が高まっており、それを実現するツールとしての CMS の方も市場が形成されてきているとの実感をもつことができました。そこで今回は、まずこのテーマを中心に据えようということになったわけです。特に、米国からはボブ・ドイルさんに欧米の動向を、そして今回は初めて韓国のオ・ゼチョルさんにアジアの視点からの動向をご紹介いただくことになっています。
国内動向については、CMS ベンダー側とユーザー側の間に立つソリューション企業の視点から、実際の問題や両者に対する意見などを議論してもらい、この市場の課題についてあぶり出せればと思っています。
——インタラクションと情報アーキテクチャが関連テーマとなっているのはどんな理由からですか?
篠原 組織の内外で掘り起こされ、編集されたコンテンツが CMS を通して吐き出され、ウェブサイトとして利用される際に、人によいユーザーエクスペリエンスを提供できるようにすること。このためには、インタラクションデザインが非常に密接に関わってきます。また、ユーザーがもたらされるエクスペリエンスに加えて、CMS ツールを使う側、つまりコンテンツを発信していく側にとってのエクスペリエンスをよりよいものに変えていくことも、CMS ベンダーにとって大きな課題になっているため、複数の知見を組み合わせることはやはり重要になってくるのです。
そして、情報アーキテクチャについては、特に「検索」という視点にもとづく新しい発想を海外ゲストのピーター・モービルさんにご紹介いただくことになっています。Web2.0的な新しい動向に見られるような、ネットの「あちら側」で起きていることをしっかり見据えて、今回の3つのテーマをうまく結びつけた基調講演をしていただけるようお願いしているところです。
コンテクストを共有するコミュニティ
——今回はゲストスピーカーからの発表だけでなく、「BOF(birds of a feather)」という参加型のセッションも設けられていますね。
篠原 一つのテーマのもとでゲスト、参加者の別なしに双方向に意見をぶつけ合うセッションが BOF です。テーマ領域を超えて様々な専門家や現場の実践者同士が出会って交流しあい、コミュニティをつなげていくことを「DESIGN IT!」の目指す目標の一つに据えていますので、BOF にはそんな意味合いを持たせられたらと思っています。また、米国からお招きするゲストの方々は、まさに専門家コミュニティのリーダーとして活躍されている方ですので、コミュニティ同士の連携や協働への刺激にもなったらと考えていますし、ここでの刺激がさらに現地のコミュニティへフィードバックできたら理想です。
——カンファレンスでは、どんな議論を期待していますか?
篠原 テーマを絞ったとはいえ、それでも盛り沢山の内容ですから、まずは3つのテーマが結びつくことによる文字通りの「コンテクスト」の重なり合いを参加者の皆さんに気づいていただき、新たな知見と刺激を持ち帰っていただきたいと思います。最終的にどんな議論が展開されるかは、モデレーターを務める私自身も分かりませんが、今回で結論が出るような類いの問題でもないかなと。時間をかけて、しっかりとこういう各テーマ領域をクロスさせた議論ができる場をつくっていくことが大切だと。その契機となればよいと思っています。
——ちょっと気が早いですが、次回以降も期待できそうですね。
篠原 「DESIGN IT!」に関連するテーマは、今回の3つだけが特に重要というわけでもありません。今回取り上げなかったテーマは、おそらく次回以降のカンファレンスに受け継がれていくことになるでしょう。毎回毎回、そのつど違うテーマを設定していったとしても、全体のコンテクストは重なり合い、互いに共有しながらITとデザインの融合を目指していく——「DESIGN IT!」はそうしたコミュニティでありたい。そして、人が集うリアルなイベントの側面はもちろんのこと、ウェブサイトを通して知見を結びつけていくような展開もしっかりと進めていきたいと考えているところです。
(2006年4月2日)
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