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CMS Watch:WCMトレンド2008 /2008年のウェブCMSのトレンド
2007年11月16日 掲載
The Web CMS Report 2008 [cmswatch.com]を完成させる作業を通じて、ウェブ・コンテンツマネジメント(WCM)の世界に起きている大きな変化を再び観察する機会に恵まれた。変化のなかには、以前に紹介したテーマの継続にすぎないものもあれば、まったく新しいものもあった。今回の記事では、私たちが観察したなかから特筆に値するトレンドをいくつか取り上げていくことにしよう。
トレンド1:制作・配信一体型への回帰
制作と配信を兼ね備えたWCMシステム、すなわちコンテンツマネジメントとウェブサイトマネジメントを一緒にできるシステムを積極的に検討する顧客が増えている。そしてベンダーも、この要望に応えている。
このトレンドを牽引している大きな要因の中には、コンテンツの消費体験をリアルタイム(または、ほぼリアルタイム)でカスタマイズし最適化しなければならないという、ビジネス上のニーズが挙げられる。そして、ウェブ2.0は、即時的な反応という面でユーザーの期待値を高めることによって、この傾向を加速してきた。AJAXを使うことで、ウィジェットではサービスの提供やデータの入出力がリアルタイムで行えるようになった。この結果として、アーキテクチャの境界は曖昧になってきている。また、ユーザー生成コンテンツ(User-generated Content)は、配信段階へのマネジメント・サービスの介入(再介入)を意味しているかもしれない。
トラフィックの多い環境でのダイナミック配信インフラには、以前よりも信頼が寄せられるようになっている。ただし、消費段階でウェブCMSサービスを複数のマシンに配信しようとすると、ライセンシングが非常に高くつく。インタラクティビティというのは、決して安上がりに達成できることではない。
トレンド2:ウェブサービスの地盤沈下
SOAPが禁句となる時代が訪れているのかもしれない。ベンダーは、(その大部分が)新しいウェブサービスAPIを盛んに売り出しているが、それを実際に使っている顧客はほとんどいないように見受けられる。一方、サービス・オーバー・HTTPの基礎としてのRESTには、ますます関心が寄せられるようになっている。恐ろしいペースで進むウェブ開発の環境下では、ウェブサービスでは太刀打ちできないコンスタントな変更が加えられることもあり、よりいっそうの軽快さが求められるからだ。
もちろん、製品の内部でウェブサービスを使っているWCMベンダーが成功している例はいくつかある。ほとんどはコンテンツ配信サービスの分野だ。しかし、他のベンダーのサービスに取って代わるようなものではなく、結果として業界は、サービス志向アーキテクチャ(SOA)とは程遠い状況であり続けている。
トレンド3:XMLはサポート、ただしコンテンツ再利用はサポートなし
XMLのサポートは、今やどこでも見られるようになった。しかし、ほとんどのWCMベンダーが、XMLを通じてコンテンツを複数の目的に使えるようにすることを約束している一方で、実際のコンテンツ再利用となると、実態はほとんど提供されていない。一般に、XMLとして保存されたドキュメントは、ウェブページ全体を意味するか、たとえ粗く分割されているとしても、ある程度完結した単位となっている。つまり、ベンダーは、大きな塊を大きな塊として「再利用」できるようにしているのだ。例えば、あるニュース記事をページAとページBに表示して、ページCでも再利用して、それからモバイル機器にも送信して……という具合に使われる。
しかし、細かく分割された塊から新しいドキュメントを作るとなると、ほとんどのWCMシステムでは、まだ簡単にはできない。とはいえ、この種のDITAのようなコンテンツ作成に対する需要は、かつてないほど高まっている。そして、XMLの断片の継続管理には、使いものになる依存性レポートなどの点で、さらに大きな需要が見られている。
つまり、シングルソース・パブリッシングの目的では、手持ちの一般的なWCMツールを使うことは(現時点では)できないということだ。
トレンド4:アドオン・モジュールの復活
価格体系とライセンシングを簡略化するトレンド(短命に終わった)に続いて、現在ベンダーが好都合(かつ利益が見込める)と見なしているのは、コア製品をアップグレードするため、あるいはアップグレードするにあたっての補完物として、追加モジュールを販売することだ。これについてベンダー側は、パッケージングやライセンシングのあり方を顧客のニーズに合わせようとしているだけだと説明している。
この点においては、長期的な視点に立って準備し、予算を組むべきだろう。
トレンド5:AJAX機能の遅れ
小数点以下のバージョンの製品リリースには、必ず「次のバージョンでは、すばらしいAJAX機能が追加されます」といううたい文句がついてくるように見える。しかし、その未来が現実になるのに随分と時間がかかっている。
このトレンドは以前にも取り上げたが、同じ懸念は今も払拭されていない。その理由として、AJAXのアプリケーションはテスティングとデバッギングがきわめて難しいこと(ブラウザのクロス互換性問題が一因)があるのではないかと、私たちは疑っている。また、AJAXの技術そのものも、フロントエンドとバックエンドの両方でコンスタントに変更されている。ベンダーのなかには、AJAXベースのコントロールパネルをすでに開発しているのに、実際のコンテンツ配信には使い勝手の悪いインターフェースをデフォルトにしているベンダーもある。
トレンド6:JCRへの無関心
複数のベンダーが、「次のバージョンではJavaコンテンツ・リポジトリ(JCR)への準拠を目指している」と説明している。しかし、その取り組みには、あまり切迫感が感じられない。顧客がJCRサポートを(まだ)望んでいないのだというベンダーからのささやきも聞こえてきており、もしかすると、それは正しいのかもしれない。
理論的には、JCRによって、複数の(様々なタイプの)コンテンツ・リポジトリを統一的なアクセスAPIの背後にまとめられるようになり、縦割りの住み分けを打破してコードの再利用ができるようになる。しかし皮肉にも、一般にCMS業界というのは、住み分けを打破しようとする業界ではない。現実はまったく逆だ。意図的かどうかは別として、CMSベンダーのビジネスとは、ウェブコンテンツ、メタデータ、システム機能などに対して新しい住み分けを導入するビジネスだ。JCRが普及するとすれば、それはまずECMのレベルからであって、WCMは(あくまで普及すればの話だが)その後になると、私は考えている。
これから起きる……技術革新
業界についてネガティブなことしか言わないと思われないように、ポジティブな点も指摘しておこう。それは、商業ベンダーとオープンソース・プロジェクトの両方が、引き続きすばらしいペースで技術革新を進めているという点だ。確かに、技術革新というのは、まだテストされていない機能や予想外のパフォーマンスを意味することもある。しかし、ウェブCMSツールは、広く、深く、進化し続けている。すでに予期している人も多いかもしれないが、ほとんどの技術革新は、市場の中下位の部分で起きる。同じ費用で今まで以上のサービス、パワー、フレキシビリティ、オプション、管理コントロール、オーサリング機能が手に入るようになる。環境を簡略化する選択肢も増える。
問題は、その技術革新で何をするかだ。技術のことで興奮するのはいいが、最終的にコンテンツ「マネジメント」と呼ばれるからには、それなりの理由がある。
終わりに
トレンドは光明をもたらす。しかし、必ずしも、顧客が解決したいと思っているビジネス上の問題について、ガイダンスをもたらすものではない。業界の他の企業には有益な戦略でも、ビジネスニーズ次第では同じ戦略が奏功しない企業もあるかもしれない。だからこそ、The Web CMS Reportを執筆するにあたって私たちは、CMSそれぞれの特徴を個別に分析している。パーフェクトなCMSソリューションというのは存在しない。「平均的な顧客」や「典型的なニーズ」というのが存在しないのと同様だ。業界のトレンドを検討する際は、現実の要件と併せて考える必要があるだろう。
この記事の原文「Web CMS trends for 2008」は、2007年10月23日、「cmswatch.com」に掲載された。
本サイトに掲載している CMS Watch の記事は、CMSWatch.com より許可を得て、翻訳・転載しているものです。
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