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『コンテンツマネジメント パーフェクトガイド』活用のヒント(3)
2008年3月 4日 掲載
コンテンツマネジメントの実践
本記事は、『コンテンツマネジメント パーフェクトガイド』[mycom.co.jp](毎日コミュニケーションズ刊)を読み進めるにあたっての「とっかかり」や「活用のヒント」を提供していくことを目的としています。第3回目の今回は、本連載の締めくくりとして、本書を「コンテンツマネジメントの実践書」として活用する流れとそのポイントについてご紹介します。
前回は、コンテンツとは何か、コンテンツマネジメントとはどのような概念なのかといったことを解説しました。
しかし、本書に関心を持つ方にとっては「だから、具体的にはどうすればいいの?」ということこそが重要かもしれません。[基本・計画編] と[デザイン・構築編]の両方を合わせると、本書のボリュームは、1,300ページ以上にもなります。そしてその大半のページを通じて著者が伝えようとしているのが、まさに「コンテンツマネジメントの実践手法」です。その中では、CMSを導入する前に検討すべきことから、CMSの機能を用いて実践すべきことまでが丁寧に網羅されています。
様々な想定と、様々な計画の見直しから着手する
CMSプロジェクトのプロセス
コンテンツマネジメントというものの概念が理解できてきたのなら、次は、皆さん自身の状況に当てはめて、その概念を具現化していく番です。本書のChapter 15「CMSに向けて準備する」には、プロジェクト全体のプロセス(右図)と共に、コンテンツを体系化して管理していくための準備作業が書かれています。その一部を抜粋してみましょう。
例えば、Chapter 6「コンテンツマネジメントを理解する」の「6.コンテンツマネジメントはコンピュータのインフラだ」では、次のようなシステムの構成を例示しながら、そのリスクや効果について、読者が自分に合ったスケールのコンテンツマネジメントの仕組みをイメージしていくことができるように工夫されています。
CMSに対する準備を万全にするためには、たまたま集まったプロジェクトチームでも構わずに、仕事を開始すれば良い。(中略)最大のタスクは、組織内での現在の想定を、以下の重要な論点に沿って一覧できるようにすることだ。
(中略)そうして、現在の組織に存在するコンテンツ指向のシステムから、ゴールを達成するために必要なシステムへ移行する準備が整うことになる。
- オーディエンス
- 発行物
- コンテンツ
- システムインフラ
つまり、コンテンツマネジメントに本格的に取り組む前段階として、まずは「本格的に取り組む準備がどの程度できているか」を把握するために、特定の軸に沿って材料出しをすることになります。ここでたくさんの情報が集まりすぎても困ることはありません。また、たとえ代表的なサンプルだけしか見つからなくても構いません。集まった素材をきちんと整理し、取捨選択して整理し、つなぎ合わせて行くのはこの先のステップです。
また、組織内の想定を見直す作業に並行して、本書では、以下のような準備作業も推奨されています。
- 組織内のコンテンツに関する悩みの種を探す
- コンテンツに関連する執行権限にはどのようなものがあるかを探索する
- コンテンツマネジメントを推進する際のコストやスケジュールに関して、気づいたことや予想できることをリストアップし、「ラフな予備計画」の形にまとめていく
もちろん、正式なプロジェクトが展開される場合には、正式なプロジェクトマネージャーがアレンジされ、明確なゴール設定が行われ、権限と責任を持つ何人かのスタッフが計画を立て、これらの素材を分析していくことになるでしょう。ここで行う取り組みは、本格的なコンテンツマネジメントの実践に向けた最初の一歩であると当時に、関係者がコンテンツマネジメントに取り組むための「勘どころ」を養う期間であるととらえておくと、しっくりくるかもしれません。
論理的デザインと物理的デザインに進む
予備的な作業が進んだら、次は、そこで集まった情報を使って分析を進め、1つのシステムとして、デザインしていく手法について把握する番です。本書では、これらの手法が「論理的デザイン」と「物理的デザイン」という考え方に沿って解説されています。そして著者は、とりわけ「論理的デザイン」への取り組みが、コンテンツマネジメントにおいて極めて重要であると強調しています。Chapter18「論理的デザイン」の「2.論理的デザインとは何か」のセクションには以下のような記述があります。
物理的デザインでは、CMS を実際にハードウェアやソフトウェアを用いて構築する際の仕様と計画をまとめる。論理的デザインでは、特定のプラットフォームによる制約の外でシステムを作り上げていく。論理的デザインを他の用語で言い換えると、「プラットフォームに依存しないデザイン」と言い換えることができる。なぜ、そのようなことをする必要があるのか。ここで、2、3の理由を挙げる。(中略)論理的デザインは、大きいパズルのようなものだ。それぞれのピースは、執筆者、情報源、コンポーネント、発行物等に関連する要件から収集した情報の破片だ。作り上げようとしている収集、管理、発行プロセス等が、完全で美しい1つの絵になるようにそのピースをすべて繋ぎあわせなければならない。
- CMSは、ハードウェアとソフトウェア以上のものを含んでいる。例えばコンテンツは、ハードウェアでも、ソフトウェアでもない。
- 「どうやって実現するか」を決める前に「何を実現したいか」を明確にすることが大切だ。システムを作った後に、結局それが望んでいたものでなかったと気づく以上に、時間の浪費となることはないし、またそれは、関係者が今後のキャリアを築いていく上での妨げになる恐れもある。
これは、ハードウェアとソフトウェアの検討を始める前に、そこで扱われるコンテンツの基本デザインをすることが成功の秘訣であるという意味です。この抜粋を読んでも、分かったような分からないような…、という印象を得た方も多いかもしれません。でも心配は不要です。 [基本・計画編] のChapter18「論理的デザイン」では一章全部を使って、論理的デザインの定義や意義が説明されています。また、Chapter 19「ハードウェアとソフトウェアを選択する」では物理的デザインの基礎となる情報が網羅されています。さらに [デザイン・構築編]のPart 4「CMSをデザインする」では主に論理的デザインの実践手法が、Part5「CMSを構築する」では物理的デザインの領域が扱われています。コンテンツマネジメント、およびCMSの導入に関する実践的な知識を得たい方は、ぜひ目を通してください。
実践書としての活用方法
さて最後に、皆さんがコンテンツマネジメントのプロジェクト実践に取りかかる際、または導入するシステムの選定を行う際、もしくは導入済みのシステムを自分たちの目的に合わせてデザインしていく際に有効な、様々なツールやサンプル等を本書全体からいくつかご紹介し、本記事の締めくくりとしましょう。これらの情報をいかに使いこなすかで、本書の実践書としての価値が変わってくるはずです。
応用して使うことができるツールやサンプル、参考情報
- 各種チェックシート
組織およびプロジェクト内に遍在するリスクを把握するためのシートが用意されています。(Chapter 15 の「4-6.リスク評価」、Chapter 19の「5-6.リスク評価の更新」ほか) - 各種方程式
実際に数値を当てはめて計算してみることで、現状を把握してプロジェクトの規模や難易度を把握する際に役立ちます。(Chapter 8の「5.複雑さを見積もる」、Chapter 33の「3-1.スタッフィングモデル」ほか) - 製品選定フローと詳細なRFP(提案依頼書)案
CMS製品ベンダーに尋ねたい「質問集」のかたちで、RFP案が多数用意されています。ここに掲げられたフローと用語を追っていくだけでも、知識の充実には十分役立ちます。(Chapter 19の「4.製品をどのように選ぶか」、「7.CMSの選択基準を整理する」ほか) - 様々なエンティティのつながりを示すダイアグラム群
「ゴール」「要件」「オーディエンス」等、実際に分析を進めて論理的デザインを行う対象となるもののつながりが、視覚的に確認できるようになっています。(Chapter 23の「1.コンテンツマネジメントのエンティティ」) - 事例に基づく解説とテンプレート
実在するウェブサイトを用いた、論理的デザインの行い方やコンテンツタイプの考え方、ワークフローやデザインテンプレート等のサンプルが豊富に提供されています。(Chapter 22の「3.論理的デザイン:事例」、Chapter 27の「8.コンテンツタイプの実例」、Chapter 31の「4.テンプレートの実例」、Chapter 33の「ワークフローを理解する」ほか) - 様々なコラム
本書全体を通じて多数用意されている「コラム」では、読み物として面白いのはもちろんですが、読者が息抜きをしながらも重要テーマに関する応用課題を把握したり、身の回りの素材を用いて自分自身で各テーマを検討し始めることができるように意識されているのが特徴的です。コラムもコンテンツマネジメント実践の手がかりとして重要な情報です。(Chapter 2の「ものぐさライターの内面の葛藤」、Chapter 18の「あなたの論理的デザイン」、Chapter 26の「発行物チューリングテスト」ほか多数)
原題『Content Management Bible』からイメージできる通り、本書はコンテンツマネジメントに関連する「思想書 兼 実践書」ととらえるのが妥当です。コンテンツマネジメントに関心のある方は、ぜひ本書を常に手元に置き、自分に関係のありそうな箇所に線を引いたり、たくさんの付箋を付けたり、周囲の人々と議論することから始めてみてください。
それにより、皆さん独自のコンテンツマネジメントというものについて様々な角度から理解が深まるだけでなく、プロジェクトの途中で判断に困ったり、正しい道につながる方向が見えなくなったり、将来的な展望の持ち方に不安感じたようなときに、有効な手がかりを見つけることができるようになっていくはずです。そしてそれが、著者ボブ・ボイコ氏が本書に込めた最大の思いでもあるに違いありません。
関連情報
今回のキーワード(五十音順)
RFP、計画、コラム、コンテンツマネジメント、コンテンツマネジメントシステム(CMS)コンテンツマネジメントのプロジェクト、テンプレート、物理的デザイン、方程式、論理的デザイン
本記事について
- 本記事は、著者の許諾を得て、書籍『コンテンツマネジメント パーフェクトガイド』 [mycom.co.jp](毎日コミュニケーションズ刊)の内容を抜粋、加筆、再編集してご紹介するものです。
- 本記事は、書籍『コンテンツマネジメント パーフェクトガイド』を片手に記事を読んでいただけるよう、もしくは、本書の購入を検討する際にその有用性を端的に理解していただけるよう、できる限り書籍内での関連箇所を明記しながら、同一の表現をとるように配慮しています。ただし編集上の都合により、それらが完全に保証されない場合もありますことを、ご了承ください。
- 本記事中で「Part」「Chapter」として示される引用箇所と書籍全体との対応については、本書の目次をご覧ください。
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