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ダン・サファー パーソナルサイト「O Danny Boy」:機能への思い入れ
2008年7月 9日 掲載
機能への思い入れ
『Wisdom of Crowds(邦題:「みんなの意見」は案外正しい)』の著者であるジェームズ・スロウィッキー氏が、雑誌 New Yorker に執筆した最近の記事によれば、消費者は自分が所有する機器の機能に惚れ込むのだという。
消費者は、目新しい製品が自分に使いこなせないことが分かってはいても、それに魅力を感じるものだ。人は新製品を店頭で目にしたときに、機能が充実していればしているほど、それが優れたものであると感じる傾向にある。しかし一旦それを自宅に持ち帰って使ってみようとすると、単純性の美徳というものを悟るのである。
数ヶ月前には、ドナルド・ノーマンもこの現象に関する調査結果を示している。
問題:なぜ我々は、利用する人々を混乱させるようなものを好んで開発するのだろうか?
解答:人々が機能を求めているからである。また、単純性の神話はすでに過去のものとなっているからである。そもそも存在したのかさえ定かではない。
単純なものを作っても、人々はそれを購入しようとしないだろう。選択肢があったとしても、人々はより多くのことができるアイテムを選択するだろう。たとえ自分がその複雑さに悩むことが分かっていたとしても、機能は単純性に勝る。あなたもきっと同じことをしているに違いない。2つの製品を並べて比較した結果、より機能が豊富なほうを選んだことがあるのではないだろうか。決して恥ずべきことではない。そう、これが正常な人間なのである。
ノーマンは、この調査結果で手厳しい批評(しかし、おそらく検証はされていなかったに違いない)を行った後に、補足記事を発表した。(なんと補足記事のほうが当初の文章より長い!)その中では「人々はシンプルに見えるシステムに対価を支払わない。なぜなら外観が単純であることがその能力が劣っているかのように見せるからだ。それゆえ、いまだに多くのボタンやつまみが付いているような、完全自動化システムが存在する」と述べている。ノーマンはまた、自分が示した要点と同じ内容を語るジョエル・スポルスキーの記事にも言及した。
ノーマンの最終的な解答は次のようなものだ。
実際の複雑性を低下させれば、真の単純性は向上する。これはデザインするうえで興味深い挑戦である。能力があるように見せながら、使いやすさも兼ね合わせること。
ノーマンの主張は理解できるが、僕はもう1つ考えるべきことがあるように思う。それは、機能の策略ゲームに一切参加するべきではないということだ。たいていの機能は消耗されるものであり、ゆくゆくは複製されてしまうことが多いのが現実だ。それにひきかえ「機能と機能のつながりの部分」は、製品に対するロイヤルティや期待を生み出すものといえる。そして、このつながり部分を複製することは難しい。ここが、工業技術ではなく「デザイン」が登場する場面なのである。まず、最初に機能に関する作戦を練るべき(最低でも重要視して考える)であり、それから複数の機能を1つにまとめ、役に立って使いやすい、満足がいく製品に仕立てなければならない。
iPod は、最大容量のメモリを搭載していたために他のMP3プレーヤーを打ち負かしたわけではない。事実、Apple の製品を「機能の集合体」として購入する人は誰もいないだろう。もしそんな人がいるとしたら、それはとてもばかげた話だ。同等のコンピュータをより安く購入することができるのだから。人々は、iPodを機能の集合体として求めているのではなく、複数の機能が互いにうまくつながり組み合わさっているからこそ購入するのである。
もう1つ、Wii を取り上げてみよう。このパッケージを見てほしい。Wiiは機能が優れているために PLAYSTATION 3を打ち負かしたわけではない(事実、機能が優れているわけではない)。機能間の競合を排除して、ゲームにおけるより良い体験を提供したのだ。そう、グラフィックは低品質で極めて原始的な状態だが、そんなことは問題ではない。Wii が持つ複数の機能がうまく組み合わされていて、(少なくても現時点の)PS3 よりも楽しいものになっているからなのだ。
Apple の製品と Wiiは両方とも、機能の詳細をアピールしたマーケティングは行っていない。こういったことは他の業界でもしょっちゅう見かける。Scion は、自動車の馬力を前面に出して販売しているわけではないし、W Hotels では、部屋が何平方フィートであるかを売り物にしているわけではない。ノーマンが述べるように、人は対価を払うために、何らかの価値を得られると感じたいのである。恐れもあってのことか、人々は欲望、喜び、陽気さ、ぜいたくさより、能力を選ぶのだ。(「見た目はかっこ悪いけれど、少なくても動くには動くだろう」)ノーマンが別のどこかで指摘したように、人々は魅力的に見えるからこそうまく動作すると考えて製品を選ぶことはぜず、過剰に複雑な製品でも、せめて動くだろうと願いそちらを選ぶのである。意思決定理論に関する記述にあるように、機能一覧とは、将来、後悔しなくて済みそうだという願いから、人々そして僕たちデザイナーの判断に満足感を与える役割を果たすのだ。
技術的な仕様策定とは違い、デザインとマーケティングの分野は一緒になって仕事を進め、その製品が持つストーリーを描き出していく必要がある。つまり、どのようにしてすべての機能を組み合わせれば1つの製品として販売できるか、人々に楽しんでもらえるかといったことを考えるべきなのだ。単純さを複雑さ以上に売り込む必要はない。僕たちデザイナーは、役に立って使いやすく、満足がいくような製品を販売する必要があり、もちろんそれをデザインする必要があるということだ。そうすれば、消費者はすべてを「理解」するのである(ここが、マーケティングが登場する場面である)。機能の泥沼にはまる必要はない。勇気と自制心さえあれば、デザイナーは自分自身を泥沼から引き上げるためのロープを手にすることができるのである。
本サイトに掲載している 「O Danny Boy」の記事は、ダン・サファー氏 より許可を得て、翻訳・転載しているものです。
関連サイト
- O Danny Boy [odannyboy.com] (パーソナルサイト)
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