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ダン・サファー パーソナルサイト「O Danny Boy」:誰でもデザイナーになれるのか?

2008年7月 9日 掲載

Dan Saffer
Adaptive Path のインタラクションデザイナー、インタラクションデザイン修士、インタラクションデザイン協会(IxDA: Interaction Design Association)理事

誰でもデザイナーになれるのか?

原文: O Danny Boy [odannyboy.com]
投稿日: 2007年8月25日

ベテランの料理人であり、優れた肉屋でもあるライアン・フレイタス(Adaptive Path のエクスペリエンスデザイン・ディレクター。これを読む代わりに、彼が書いた料理とデザインの類似点に関する記事をぜひ読んでほしい)の隣に座っているためだろうと思うが、僕は最近ずっと、シェフや料理に関する本を読んでいる。具体的にその書名を言うと、アンソニー・ボーデインの著書『The Nasty Bits 』とビル・ビュフォードの著書『Heat』である(これらの本は、この次レストランに行ったときに、出てきた食事について正当な評価ができるようになるという単純な意味でもお勧めだ)。一方、IxDA メーリングリストの最新スレッドでは、デザイナーになれるのはどんな人か、なれないのはどんな人か、いや、事実上誰でもデザイナーなのだ、といった議論が再び発生した。

映画『Ratatouille(邦題:レミーのおいしいレストラン)』では、料理をするということに関して同じような質問が投げかけられた。「料理は誰にでもできるのだろうか?」。

もちろんその答えは「イエス」だ。程度はいろいろだが、料理は誰にだってできる。しかし、誰もがプロのシェフ、コック、肉屋、その他たくさんの職に就き、仕事場としてのキッチンを作り上げたり一般の食品産業を支えたりするわけではない。職に就くためには、訓練とある種の気質、そして肉体的な耐久力が必要なのだ。雑誌 New Yorker のライターであるビュフォードが『Heat』の中で言及しているように、誰もが家庭では偉大なる料理人になれるが、その能力は仕事場としてのキッチンの中で必要な能力とはまったく別物なのである。

程度は少し劣るかもしれないが、ほぼ同じことがデザイン(さらに言えば、芸術性とスキルを組み合わせるあらゆる技術)についてもいえる。誰でもデザインすることはできる。これは、アイデアに形態と表現を与え、理想に達していない状態を改良するための人間としての営みだ。しかし誰もがプロのデザイナーになって、多くのデザイナーと同様に、お金、時間、自分自身やクライアントの名声、ユーザーから得る評判といったリスクを背負うレベルで働くことはできない。加えるなら、医療機器や軍用システム、救急システムなどを扱う一部のデザイナーにとって、そのリスクレベルはさらに高いものとなる。そういったシステムでは、ユーザーはまさに自分の命をデザイナーに預けることになるわけなのだから。君がどうかはわからないが、僕は自分が使う重要な製品やサービスのデザイナーには、きちんと自分のやっていることを理解していてほしい。

とはいえ問題なのは、レストランにいる客と同じように誰もが自分でデザインできると考えていて、伝えるか伝えないかは別にしても、皆デザインワークに関する意見を持っているということである。デザインに対する意見を持つということは、デザイナーになることとは別物だ。意見のいくつかが他の意見より優れていることもあるだろう。しかし、それはデザイナーによる見解とはまったく違う。僕は開発者やビジネスアナリスト、企業幹部、調査に参加してくれた人たちなどから、ところ構わず優れたアイデアを盗んできた。しかし僕たちデザイナーは、合意したり拒絶したりするアイデアに対して冷静な判断をしなければならない。これがまさに、プロとしての重要な判断なのである。

プロのデザイナーと素人との違いは、デザイナーが仕事をしているときに行う数々の選択のクオリティとバリエーションの豊富さにあると考えるのが正しい。常にそうあることは困難(主観的なアートを扱っているため)かもしれないが、プロのデザイナーは自分の仕事を主張し、ときに守れるよう、熟考したうえでの判断に努めるべきだ。自分の家を設計するような場合、自分の判断を誰かに対して弁護する必要はないだろう(ただし、家族は除く)。人の命を預かるような重大な目的を持っていても、きちんと購入されて利用されるような製品やサービスをデザインするときには、最良の選択をすることが望まれる。最良の選択とは、その製品やサービスが利用される状況への理解に、経験、才能、スキルが加わって可能になるのである。これこそが、僕に給料が支払われる理由だ。

本サイトに掲載している 「O Danny Boy」の記事は、ダン・サファー氏 より許可を得て、翻訳・転載しているものです。

関連サイト

  • O Danny Boy [odannyboy.com] (パーソナルサイト)

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