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モバイルUIの方向性/iモード、iPhoneが示すもの

2008年7月24日 掲載

川添 歩
ソシオメディア株式会社 シニアコンサルタント

WIRELESS JAPAN 2008 コンファレンス 「モバイルUI」から

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「モバイルUI」講演の様子

東京ビッグサイトにて開催の「WIRELESS JAPAN 2008」において、DESIGN IT! magazine協力のもと、モバイルUIをテーマとしたカンファレンスが実施されました。

私も「モバイルUIの方向性」という題目でお話させていただく機会を得ました。そこでお話させていただいた内容をご紹介します。


「タッチスクリーンはケータイ(もしくはモバイル機)の次世代インタフェース(になるか)」

会場での質問にもあったのですが、本イベントの前後にもいろいろなメディアに散見するのが、「タッチスクリーンはケータイ(もしくはモバイル機)の次世代インタフェース(になるか)」という文言です。 これは、タッチスクリーンを全面的に採用したiPhoneが世界展開をし、日本にもいよいよ上陸した、ということから言われていることだと思われます。キャリアやメーカーからもiPhoneに対抗する機種や機能として、タッチスクリーンの採用を言われている場合もあるようです。

しかし、少し考えてみればわかるとおり、タッチスクリーンという技術そのものは、ずいぶん以前からある技術です。すでにわれわれは銀行のATMや駅の券売機で毎日のように利用しています。また、ケータイでタッチスクリーンが使われたのもiPhoneが最初などではなく、例えば10年も前にパイオニアがDP-211という全面タッチスクリーンのケータイを出しています。 私は、iPhoneを「次世代のケータイ」と言ってよいと思いますが、それはタッチスクリーンを採用したからではありません。逆に言えば、タッチスクリーンを採用すれば次世代ケータイになるのではありません。

iPhoneが次世代であるゆえん

iPhoneが次世代であるゆえん、端的に言えばiPhoneの「すごさ」は、そのUIが新しいパラダイムを作り出したことにあります。 それは「ユビキタス情報ブラウザ」を徹底的に追求した結果として生まれたUIです。 ユーザーが「いつでも」「どこでも」情報を「ブラウズ」することができる、という目的を徹底的に追求した結果として、それは手のひらに乗るケータイという形をとり、ペンを探さなくても使えるための指で触れるインタフェースを採用することになったのです。

タッチスクリーンという技術が先にあるのでなく、ユーザーが何のために、何をするのか、したいのか、ということを定義し、それに最適な方法を選択した結果としてタッチスクリーンがあるのです。そしてその方法をできるかぎり簡単でわかりやすくするために、直接指でスクリーンを触るという操作体系が考えられたのです。

「そぎおとし」が生み出すユーザー満足度

iPhoneの操作体系を一言で言えば「そぎおとしの粋」です。ユーザーの利用目的にぴったり沿った機能に徹底して絞り込み、そのためには、ふつう考えれば絶対削除しないような機能(たとえばコピー&ペースト)さえ削除して、シンプルなユーザーインタフェースを実現しています。スペック表で比較しようとすると、まったくたいしたことがないのに、機能満載のケータイと比べようもないぐらいのユーザーの満足度を作り出せるのはこのためです。

「そぎおとし」のための手法として、指をただタッチするのでなくスライドさせるとか、二本の指を同時に使うというインタフェースを導入し、また指の動きに対応する画面の動きがユーザーにとってごく自然に見えるよう、物理法則を取り入れたアニメーションをフィードバックとして採用しています。

こうしたインタフェースやフィードバックは、操作をシンプルにする効果を生むだけでなく、ユーザーが日頃体験していること、たとえば紙をはじいたらしばらく滑ってから摩擦によって止まる、ということと「同じであるようにみえる」ので、ユーザーはその操作方法を忘れることがありません。著しく学習効果が高いのです。

さらにアップルは、ブラウズする情報の重要なひとつとして、ユーザーが自ら管理する情報が、「いつでも」「どこでも」「唯一で最新」の状態になっているようにし、しかもユーザーがそうした状態の維持のための労力や意識をまったくもたなくてよいようにするために、MobileMeというサービスを開始しています。これもまたユーザーの目的を実現するiPhoneのシステムの一部なのです。

ユーザーが望んでいることのシンプルな実現

iPhoneに学ぶべきは、「タッチスクリーンを採用した」という表層的な、しかもたったひとつの技術の採用などではまったくなく、「ユーザーが望んでいることのシンプルな実現」の手法です。

これまでのケータイが持っているテンキーと十字キーの物理的なインタフェース、これがタッチスクリーンにとって変わられるのではありません。もしそんなことがおこるとすれば、物理的なボタンの利点を必要としている目的や用途のソリューションが失われてしまい、ユーザーにとっては不幸なことです。

ボタンにも、タッチスクリーンにも、ユーザーの目的にあった最適な使い方があります。ボタンのインタフェースを利用している機器のメーカーやデザイナーが考えなければならないのは、タッチスクリーンを採用することではなく(いやそれもあっていいのですが、まずは)ユーザーの目的にあった最適なボタンのインタフェースとはどのようなものか、ということです。もちろんそのためには、ボタンに適合するのはどのようなユーザーのどのような目的なのかを、きちんと定義することからはじめなくてはなりません。 わたしの講演の最初でご紹介したのは、iモードがスタートしたとき、その開発者たちはこうしたことを実にきちんと考えていた、ということでした。

最後に

iPhoneのようなシステムは、マーケティングからは生まれません。iモードのときもそうだったと思いますが、iPhoneを知らない既存のケータイのユーザーに「どのようなケータイが欲しいですか」とアンケートをとっても、決してあのようなケータイを求める答えは得られません。

どのようなユーザーなのか。そのユーザーが「結局」何をしたいと思っているのか。そのことを徹底的に知り、考えることからしか、生まれないでしょう。
まあ、そのように考える人や組織がまだまだ少ないからこそ、そしてまたそれがそう簡単なことではないからこそ、わたしたちが、ユーザーインタフェースのデザインを仕事とすることができるのですが。

執筆者紹介

川添 歩

ソシオメディア株式会社 [sociomedia.co.jp] シニアコンサルタント

情報アーキテクト、UIコンサルタント/デザイナーとして、Webサイトやアプリケーションソフトウェアの情報アーキテクチャおよびユーザビリティに関する評価・企画・編集・設計を行っている。「情報が滞りなく流れ、もっとゆたかで、もっとやさしい世界に」するために。 月刊誌編集長、書籍部編集長を経て、95年2月にWebのデザインを専門として独立、06年よりソシオメディア。 武蔵野美術大学芸術文化学科非常勤講師。立正大学文学部非常勤講師。


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