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「インタラクションデザインが次世代UIを導く」

2008年8月15日 掲載

DESIGN IT! magazine』vol.1のインタビュー記事「EYES」を掲載しています。

米アダプティブ・パス社は、米国を代表するユーザーエクスペリエンスに関するコンサルティンファームに位置付けられる。次世代型UIに不可欠な要素として注目が集まる「インタラクションデザイン」について、同社のデザイン担当のダン・サファー氏に詳しく聞く。

製品やサービスを介してインタラクションを手助け

ダン・サファー氏

-日本でもUIについて感心が高まりつつありますが、そのUIを次のステージに引き上げるには「インタラクションデザイン」が必要と説かれていますね。

インタラクションデザインというのは、製品やサービスを介して人と人がインタラクション(対話)することを手助けするための技術です。

というと、これはかなり広い領域になりますので、もう少し範囲を絞ってみると、何らかの「認識力」を持つ製品と人間とのインタラクションに関するものとなります。ここでいう認識力を持つ製品とは、人間に対し何かしら判断して、反応を返すことができるマイクロプロセッサを備えるものです。

なお、インタラクションデザインは、状況に依存するという性質がありますので、特定の状況下の特定の問題を解決する技術ということになります。

同時にビジネスの目的と、ユーザーが持つニーズや能力・目的とのバランスをとることを、常に念頭において実践していく必要があります。

-米国では、インタラクションの専門職があるようですね。

「インタラクションデザイナー」と呼ばれています。その仕事の内容は、利用者にとって製品やサー ビスを納得できるもの、使いものとなり、また実用的で興味をそそって面白いものとなるように、問題を解決していくことです。そして、ひいては人間同士のインタラクションを、もっと深く豊かで、さらに良質なものになるような方法を見つけ、世界を住みやすいものにすることを目指しています。

インタラクションデザイナーは、製品とサービスを創造しながら、少しずつ世界を変えていく役割を担います。同時にビジネスの目的と、ユーザーが持つニーズや能力・目的とのバランスをとることを、常に念頭において実践していく必要があります。

インタラクションデザインを良書に学ぶ

-日本では、まだ「インタラクションデザイナー」という肩書きの方は少ないようです。

ダン・サファー氏

インタラクションデザイナーと呼ばれている人は、今は決して多くないかも知れませんが、仕事 の一部としてインタラクションデザインをやっている人は多いのではないでしょうか。実際には、 「ビジュアルデザイナー」や「プログラマー」、「インフォメーションアーキテクト」という人たちなのか も知れません。

彼らはインタラクションデザイナーと呼称されてはいませんが、「どのパーツがどう機能するか」 といったことを定義するなど、インタラクションデザイナーの役割が仕事の一部になっています。

-そういった方たち、もしくはこれからインタラクションデザインを志そうとする人たちは、どのように知識やスキルを習得していけば良いのでしょうか。

大学に学んだり、アダプティブ・パス社のような専門のコンサルティングファームの門を叩く方法が 考えられます。ただ、これはそれなりに時間とコストが掛かります。個人の方や仕事の傍らで目 指す方であれば、それに関する専門書に学ぶのが早道かもしれません。すでに、そうした大学の 教授やコンサルティングファームに所属するメンバーの著書もいくつか存在しています。

-推奨の書籍をいくつか教えてください。

まず、アラン・クーパー氏の『About Face』があります。多少難解なところはありますが、インタラク ションデザインにおける原典とも言えるものです。 また、少し手前味噌になりますが、拙著『designing for interaction』(邦題『インタラクションデザインの教科書』、8月に毎日コミュニケーションズよDESIGN IT! BOOKSシリーズとして出版予定)は入門書として好評のようです。

インタラクションデザインの教科書

実は、私がオンライン証券会社でインタラクションデザイナーとして勤務した際、自分の経験や知識のなさに気づいて、カーネギーメロン大学の大学院でデザインの学位をとることを決意しました。その際に、大学院生としてインタラクションデザインの講義を担当する機会を得たのですが、生徒に読ませるのに適切な教科書を見つけるのに苦労したことから、本書を手がけることになったのです。

それから、同じアダプティブ・パスのJJ・ギャレット(“Ajax”の命名者としても著名)の『The Elements of User Experience』(邦題『ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」』。毎日コミュニケーションズ刊、2005年)は、デジタルデザインの教科書として活用されています。

これらの書籍が、これまでインタラクションデザインについて充分な訓練を受けてはいない人たちに、その仕事を遂行するための基礎的なツールとして役立つと思います。

特に、電子機器を含むいろいろなものがデジタル化、複雑化していくにつれて、ますますインタラクションデザインは重要になっていきますし、ベストプラクティスを知らなければ、インタラクションデザインを基礎におく設計もできないでしょう。これらの本が、インタラクションデザインやデザインストラテジー、ルック&フィールなどに関する基本的なデザイン手法を伝えるツールになるのではないでしょうか。

複雑になりすぎないよう機能や操作性を配慮

-実際のプロジェクトにおいて、インタラクションデザイナーが存在すると、プロジェクトがうまくいくようになるのでしょうか? 考え方と併せて、プロジェクトにおけるインタラクションデザイナーの必要性について教えてください。

一般的には、インタラクションデザイナーがいた方が良いと思いますが、プロジェクトのサイズと 複雑さにもよります。 単純明快なWebサイトの構築であれば、インタラクションデザインを専門とする人は必要ないケースもあるでしょう。ところが、これがもう少し複雑なもの、例えば携帯電話やモバイル機器、ノートPC、家電など、その機能性が複雑化すればするほど、インタラクションデザインの専門家 がいた方が、より優れた製品やサービスができると言えます。

そういった専門家がいない場合、好ましくないインタラクションデザインが多くなる傾向にありま す。例えば、プログラマーがプログラムやデザインからインタラクションまでをやろうとすると、どうしてもプログラミングやビジュアルデザインに時間がかかってしまいます。システムが人とのインタラクションに対してどのように動作するのか、という肝心な部分を集中して見る人がいなくなってしまうのです。

単純な機能であればインタラクションデザイナーは必要ありませんが、複雑の程度がある一定の線を越えると、そういった専門家が必須の存在になってきます。大切なのは、機能性や操作性が複雑になりすぎないように配慮すること。そして、製品が人にとって簡単で楽しめるものになっているか、どうかを確認することです。そうでないと、プログラミングやビジュアルデザインに偏って、インタラクションデザインがおろそかになってしまいます。

デジタル機器をジェスチャーでコントロールする時代が到来

-インタラクションデザイナーが必要になるという、「複雑さの程度」の境界線を示す目安はありますか?

境界線の目安のひとつとしてあるのが、いくつかのプラットフォームを横断するかどうか、という点でしょう。

例えば、デスクトップアプリケーションに加えて、ネット上で動作するもの、さらに携帯端末など物理的な扱い方の異なるものがあれば、完全に境界線を越えることになり、インタラクションデザイナーの介在が必須となります。プログラミングのやり方や見た目は同じでも、「人が使う」という点で、プラットフォームによって手法が異なるため、それをしっかり観察し分析して考える人の存在が不可欠になります。

-今後、インタラクションデザインはどういった方向で進んでいくのでしょうか。

ここ最近、我々は少しずつディスプレイやキーボードといった、これまでの形態のマンマシンインタフェースから離れるようになっています。この点については、任天堂の「Wii」に代表されるように日本は米国よりも先を進んでいると思うのですが、ジェスチャーそのものがデジタル機器をコントロールする時代になると予測しています。

これまでのデジタル機器やPCには、キーボートとマウスというスタンダードになった入力機器がありました。ところが、コンピュータの処理能力が向上し、より高性能なセンサーなどが安く容易に手に入るようになってきて、自然なインタラクションが可能なデバイス、つまりWii や「iPhone」、「iPod touch」のような機器が増えてきています。

コンピュータの使い方というのは、ここ3~40年変わっていなかったわけですが、まさに今こそ、インタラクションデザインの新時代に入ろうとしていいます。

これからますます、インタラクションデザイナーが重要になってくる時期が到来したわけであり、まさに次の課題に応えられるよう準備していかねばなりません。

(聞き手:篠原 稔和)

Interactive Gestures表紙

Dan Saffer著
『Interactive Gestures』
(2008年秋に米国で出版予定、写真はサンプル)


DESIGN IT! magazine』vol.1のインタビュー記事「EYES」を掲載しています。


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