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コミュニケーションのためのデザイン(IT) 情報とテクノロジーの溝が拡大
2008年9月19日 掲載
『DESIGN IT! magazine』vol.1のエッセー「Column」を掲載しています。
ビジネスが機能する、つまり意味を持つためには、情報は欠かせない。ただし、その情報はコミュニケーションの中で、初めて意味を持つ。そしてコミュニケーションとは、結局インタフェースに帰着する。
筆者は30年あまり、情報(意味)の世界とテクノロジー(制御)の世界の境界で仕事をしてきた。その中で、ビジネスの環境が激変し、ITの領域が拡大する半面、この2つの間の溝が拡大しているという印象を持っている。改めて、上述した出発点を確認しなければならないと思うのは、次のような事情による。
- コミュニケーションの中身はIT が産み出す情報が多くを占める。だが、それを設計し実装するのはIT 技術者であって、彼らが専門的に見ている情報は、もっぱら信号とデータである。
- Webの登場以来、システムの「ユーザー」の範囲が際限なく拡大してきた。半面、情報の爆発的増加と発信者?受信者の関係の複雑化に対し、インタフェースが適切に機能していない。
- コミュニケーションをビジネスの中で機能させ、最適化していくためには、バリューチェーンなど、経営戦略的な観点からのコミュニケーションの構築・管理・改善(全体最適)が必要となる。ただし、そのためのコミュニケーションデザインと、経営組織論は試行錯誤の状況にある。
要するに、情報システムとメディアの差がなくなってきているということだ。B2B、B2Cを問わず、Web環境下でのITは、もはや「ビジネスメディア」と言って良い。
ここ5 年ほどの間で、このビジネスメディアにおけるデザインとマネジメントが、ビジネスのパフォーマンスを左右するということが顕著になってきている。事実、Amazon やGoogleなどの新しいビジネスモデルが、新しいITの構成と新しいコミュニケーションを切り拓いた。そして、これらすべてがWebをベースにして、既存の組織の境界を超えて展開されている。
不可知の「人間」を数値化し論理的に関係付けてモデル化
ビジネスメディアとしての情報デザインの構築
一方で、コミュニケーションの主役が人間であるということは、じつはとても厄介な問題を扱わなければならないということだ。「人間」は簡単には捉えがたい。背景や嗜好はマチマチで、気分や感情に左右され、理解力にもバラつきがある。一般化して良い場合もあればそうでないケースもある。一般「消費者」や「得意先」、「企画」や「営業」など、おおまかに分けても、ステークホルダーはあまりに多い。そうした人間を相手にする分野は、これまで「文系」の領域とされ、対面コミュニケーションが大きな役割を果たしてきた。せいぜい、数値化するのも統計までだった。だが今日のビジネスは、そうした不可知の「人間」をうまく数値化し、論理的に関係付けながらモデル化して、先に誘導できたほうが「勝ち」となる。いわば社会と人間を解析の対象とする「人文系のIT」なのだ。「コミュニケーションのためのデザイン(IT)」への取組みはすでに始まっている。
『DESIGN IT! magazine』vol.1のエッセー「Column」を掲載しています。
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