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SEのためのUI入門2 ユーザビリティの中身を考えてみよう

2008年9月19日 掲載

DESIGN IT! magazine』vol.1のエッセー「Column」を掲載しています。

ソフトウェアデザインの3 要素の1 つである「使いやすさ(Usability)」について、考えてみたい。この言葉を広く知らしめたのが、93年にヤコブ・ニールセン氏が出した「Usability Engineering」という著書だ。著者はこの中でユーザビリティを図1の5つの要素に分類している。

この定義をベースにソフトウェアの使いやすさを具体的に解説しよう。

図1:ヤコブ・ニールセンによるユーザビリティの分類
図1:ヤコブ・ニールセンによるユーザビリティの分類

1 : 学習しやすさ(Easy to Learn)、記憶しやすさ(Easy to remember)

他にもいくつか「ユーザビリティ」の定義がある中で、筆者が同氏の定義を買っているのは、この重要な要素をきちんと掲げているからだ。

ユーザビリティというと、どうしても操作性に目がいきがちだが、実はその前段となる学習しやすさ、記憶しやすさが大切だ。

筆者の本業はパッケージソフトの企画・開発で、もう20 年以上も様々な製品を作ってきた。そこで分かったのは、どんなに機能や勝手が良くても、使いこなすまでに難しい学習が必要なソフトは普及しにくいということだ。その点で、54ページで触れたiPodはマニュアルなどなくても、誰でも簡単に使いこなすことができる。そのように“学びやすい”デザイン性を有しているからこそ、世界的なヒットにつながったのだ。

以前はソフトの世界も、マニュアルを熟読してから使うという考えが一般的だった。だが最近では、いちいち説明書を読まなくても使える画面作りを目指すようになっている。「項目名を分かりやすい言葉にする」、「分かりにくい項目は意味が分かるような説明を近くに記述しておく」、など細かな配慮の積み重ねだ。ただし、これは相応の文章能力と想像力が必要な作業で、理系のエンジニアにとっては難題でもある。

「当たり前品質」ではなく「前向き品質」で考える

2 : 効率性(Efficient to use)

ソフトウェアの主たる利用目的のひとつは業務処理の効率化だ。だが、様々なソフトを見ていると、「これじゃあ現場がかわいそう」と思うような非効率なものが山のようにある。例えば、1枚の伝票を記帳するのに5 画面も使って入力しなければならなかったり、表形式でデータを登録できるのに単票形式にしているため、100件のデータを登録する際に100回画面を開かせていたり、同じようなデータを二重に入力させたり・・・。こうした例は枚挙に暇がない。

こうした非効率性が生まれるのは、作りやすさを優先するという作り手の身勝手もあるが、サービス精神や想像力の欠如が原因であることも多い。設計する際に自分が利用者で、こんなデータを入力すると想像するだけで、劣悪なユーザビリティは大幅に減らすことができる。また、後で気付いたとしても、「バグじゃないから」とそのままにしておく体質も問題だ。

品質には「当たり前品質」と「前向き品質」がある。一般に、操作性や効率性などは「前向き品質」の中に含められる。これまでのソフトウェア産業は「当たり前品質」さえ担保できれば良いという風潮が強く、品質テストも数値が合っているかというような判定基準だった。だが、現代のソフトはさらに踏み込んだ「前向き品質」が問われている。それをきちんと盛り込んで品質基準書を製作する必要があるのだ。

誤操作は利用者の責任ではなくアプリのユーザビリティに問題

図2:誤操作を誘発するATMのユーザビリティ
図2:誤操作を誘発するATMのユーザビリティ

3 : エラーの少なさ(Few Errors)

利用者は頻繁に操作ミスをする。通常は、「あ、しまった」と言って文句も言わずに操作をやり直するが、誤操作の多くは利用者のうっかりよりもアプリケーションの作りの悪さが原因だ。

例えば、筆者がいつも使う銀行のATMは、操作の最後で図2左のような確認画面が出る。毎回出るので「煩わしいな」と思いながら右側のボタンを押して次に進むと、次に図2右のような確認画面が現われる。「しつこいなあ」と思いながら、今度は左側のボタンを押して次に進むのだが、画面をパスするボタンが左にあったり右にあったりするので、急いでいるときなどに間違えてしまい、見る気もないキャッシュローンの説明画面が開いてしまう。昔、デパートで各階ごとに少し歩かせて店内を強制的に見させるという、エスカレータのレイアウトが流行ったことがあった。それと同じでキャッシュローンを利用させるために、わざとやっているのかとも思ってしまう。

こうした誤操作誘発性を軽視してはいけない。筆者だけでも何回も誤っているのだから、全国の利用者が同様の経験をしていることは想像に難くない。当然、顧客満足度の低下につながり、不要なアクセスによるコンピュータへの影響もあるだろう。

この例で言えば「いいえ」ボタンをどちらも右側に統一するという対策もひとつだが、2 つの画面を1つの画面にまとめてしまえば済むことだ。さらに言えば、筆者のようにいつも「いいえ」を押す人に対しては、このような不要なガイダンス画面はスキップするような自動判断を入れるべきだろう。

エラー発生時の処理で、ユーザビリティが悪い例にもよく出くわす。しばしば見かけるのが、エラー発生時にエラー直前状態まで戻れないものや、どこがエラーか分からないものだ。

例えば、EC サイトやセミナーなどの申し込みサイトでは、顧客情報を自分で入力する場面がある。その際、電話番号を全角で入力したり、住所欄に半角数字を使っていたりして、更新時にエラーが発生することがある。その際、ひどいサイトではデータがクリアされてしまい、最初からデータを入力し直さなければならない。また、エラー箇所が示されなかったり、複数エラーが発生したのにひとつずつしかエラー箇所を表示しないアプリケーションもある。

本当は、誤って入力しないように、入力欄ごとに入力モードの全角/半角を自動切換えすべきだ。もっと言えば、エラーにするのがそもそも前向き品質の欠如だろう。電話番号を全角にしたり、ハイフンを入れたり入れなかったり、住所に半角が混じっていたりしても、アプリケーションの方で自動的に判別して変換処理できるはずだ。

4 : 主観的満足度(Subjectively Pleasing)

54ページの見た目の大切さのところで触れたように、利用者がそのアプリケーションを気に入ってくれるかどうかは、効率性や生産性への影響としても大きい。基本は人を好きになるのと同じだ。見た目がきれいで、気配りがゆき届いていて、かつテキパキと仕事や家事をこなす。すると、人を好きになる場合もデザインの3 要素がそのまま当てはまることが分かる。そして、人を好きになれば、がぜんやる気が出てきてバリバリ働くのは言うまでもない。


DESIGN IT! magazine』vol.1のエッセー「Column」を掲載しています。

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