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Future Communities 「つながり」のためのITデザイン
2008年9月19日 掲載
『DESIGN IT! magazine』vol.1のエッセー「Column」を掲載しています。
筆者が『情報デザイン入門』(平凡社新書)という本を書いた時、頭の中には「コミュニティが、これからの知的協働の基盤となり、情報デザインはそれを支えるために極めて重要な手法になるだろう」という予感があった。今にして思えば、筆者のそんな予感を裏付ける、新しいコミュニティ観を植え付けた決定的な体験が2つあった。
ひとつは、Web黎明期の90年代半ばに関わった実験サイト「センソリウム」 [sensorium.org] だ。Webだからこそできる、情報デザインの可能性を模索したこのプロジェクトには、実に様々な分野の人々が集まった。人類学者やデザイナー、編集者、写真家、メディアアーティスト、音楽家、ネットワークエンジニア、プログラマ、地球物理学者、翻訳家、等々。そこでは組織にありがちな、上意下達と分業による集団作業ではなく、アイデア出しの段階からオープンでフラットな、まさにコミュニティ型としか言いようのないコラボレーションが展開された。異分野の知恵と経験の掛け合わせの醍醐味を実感できたことは、大きな学びだった。
情報デザインとはコミュニティと向き合う技術
それ以来、そこで目の当たりにした異分野コラボレーションは、「どんな環境で成立しうるのだろうか」と考えるようになった。もしかすると、道具や環境、方法論さえしっかりしていれば、高度な専門家同士でなくても、その凄さを実感できるかもしれない。些か乱暴な仮説だが、そんな風に考えるようになった。
その上で大きなヒントを与えてくれたのが、99年の情報デザインカンファレンス「ビジョンプラス7」 [visionplus7.com] だ。そこでは、日米欧の研究者や実践者が集まり、事例発表やディスカッションが繰り広げられ、筆者は「情報デザインとはまさに、多様な人々が関わり合いの場としてのコミュニティと向き合う技術だ」という認識を得た。同時に、そのために編み出された様々なツールやメソッド、システムが領域を横断するようにあちこちに「落っこちている」ことに気づかされた。しかも、コミュニティに重きを置いたプロジェクトでは、デザイナーやエンジニアのような専門家だけでなく、最初からユーザーを巻き込み、そしてデザイナー化していく将来像さえ提示していた。
それ以来、あちこちに潜在している知見を拾い集め、異分野を結びつける知識を一種の「道具」、そしてデザインとして社会で融通し合うことはできないだろうか、と試行錯誤を続けてきた。そして今、「異分野が互いの『つながり』をデザインする現場としてのコミュニティには、これからの社会のイノベーションを加速させていく可能性がある」という考えは、予感から次第に確信へと変わりつつある。
現在、筆者は長らく続けていたフリーランスから転じて、大学の期限付きの教育スタッフという立場に変わった。科学技術の専門家や市民の間を橋渡しする人材を育てるという仕事(北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット) [hokudai.ac.jp] は、筆者がこれまで泥縄式に取り組んできた実践の総決算であり、真価が問われる場だと捉えている。
空間からデジタルメディアまで、様々な道具を駆使し、異分野の人々をつなぐ対話と相互理解のコミュニティを作ること。おそらくデザインとITの結合は今、筆者らが現場で培っている、異分野をつなぐ知恵と経験を社会全体へとゆき渡らせるエンジンとなるに違いない。この学びのコミュニティから、情報デザイナーやITエンジニアに対して何か挑戦的で魅力的な提案なり、アイデアを発信していくことはできないかと考え始めているところだ。
『DESIGN IT! magazine』vol.1のエッセー「Column」を掲載しています。
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