ここから本文です
Part.1 "使いやすさ"の審査方法とその結果
2008年11月14日 掲載
『DESIGN IT! magazine』vol.1の特集「Feature-2」を掲載しています。
「地方自治体Webサイトのユーザビリティ評価」審査のながれ
人口13万人以上となる地方自治体(市区レベル)の305サイトから、Webサイトのデザインに配慮している92自治体サイトを選出
24人からなるHCD-Netの規格化/認定事業部運営委員メンバーがチェックリストによるベンチマークを行い、55サイトを選出
「地方自治体ホームページのユーザビリティ評価審査委員ワークショップ」を開催し、55人に二次審査での審査員資格を付与
「地方自治体ホームページ引越しタスク編」のチェックリストと、4タイプ(ビジネスマン、新婚カップル、転勤族、高齢者)のペルソナでのチェックリストの総合得点によって、上位10サイトを選出
HCD-Net 理事会および規格・認証事業部運営委員会メンバーによって最終審査会が行われ、総合1位から3位の3サイト、および3つの優秀サイトが選出
ユーザビリティ評価2007では、HCD-Net主導の下、審査員育成のワークショップも含め約半年間の期間にわたり、条件を満たした92の地方自治体のWebサイトについて「使いやすさ」を評価した。
ここでは「シナリオ・ペルソナ法」を採用し、その評価のシナリオとして「引越し」をテーマに選定。このテーマをもとに、象徴的なユーザー層を代表する4種類のペルソナを想定し、それぞれのペルソナごとにタスクシナリオを作成した。そしてタスクシナリオに基づいて、各サイトで「どれくらい必要な手続きに関する指示や必要事項が記載されているか」を評価し、得点化して積み上げていった。
「引越し」というテーマ設定は、HCD-Netの副理事で小樽商科大学准教授の平沢 尚毅氏による、「札幌版引越電子支援サービスコンセプト創出プロジェクト」(文部科学省「知的クラスター創生事業 札幌地域札幌ITカロッツェリア」)という研究がきっかけになっている。実際、住民が地方自治体のサイトを利用する目的として、「引越し」による転出・転入の手続きを調べたいといった状況は多いと考えられる。またその際に、目的の情報にどの程度でたどりつくことができ、どのように分かりやすく説明されているかということは、「使いやすさ」の評価の指標として理解しやすいと言えるだろう。
ユーザビリティ評価2007では、総合1位から3位までの3サイト、そして3つの優秀サイトが選出された。これらの受賞サイトを振り返ってみると、前年度の評価でも高い評価を得たサイトが多かった。これは、継続的に取り組んでいる地方自治体が増えていると同時に、「こうすれば使いやすくなる」と いうノウハウが蓄積されてきているという査証にも取れる。
最優秀サイト 神奈川県 川崎市 麻生区
川崎市麻生区は、昨年度の3位から順位を上げて最上位の最優秀サイトとして選出された。同サイトは、ペルソナごとのタスクシナリオでの評価が高かった。これは、実際に利用者が遂行するタスクにあった、実用的なサイト設計となっていると言い換えることもできる。
サイトのデザイン表現は、落ち着いた色合いながら項目は内容別に色分けされ、見やすさを印象づける。トップページには9つに分類されたクイックメニューが用意され、生活の中でよく登場するテーマに基づき手続き情報の目次ページとしてまとめられている。
今回、評価対象となったのは「住宅・引越」のページだが、さらに引越しにおける情報を「引越」「関連情報」「住所変更関連」「公共機関の手続き」に分類し、必要な手続きが分かりやすくまとめられている。また、もしこの目次ページで必要な情報が見つからない場合のことも考慮されている。各ページに配置された「こんなときどうする? (50音検索)」には、サイト内に掲載された情報に関するキーワードがまとめられており、それをもとに簡単に探し出すことができる。
各情報ページの末尾には必ず更新日が掲載され、情報の信頼性を高めるポイントとなっている。また、一部のページでは川崎市のサイト内の情報にリンクしているが、こうした場合には別ウインドウでその情報を表示することによって、外部サイトへのリンクであることを明示できるように作られている。
実は、この外部サイトへのリンクは昨年の評価で指摘された点だった。こうした点について、一つひとつ着実に改善を進めていることがうかがえる。
同区では「魅力ある区づくり推進事業」の一環として、サイト機能の充実を目的にプロジェクトチームを組織。「役所の立場ではなく区民の立場で作る」ことを基本姿勢に、区民からのWebサイトへの問い合 わせや意見についても集約して伝えられる体制を構築してきたという。
情報ページの更新については、イベントや制度の改定ごとに14にわたる各課の担当者がページを作成するルールだ。各ページで使用するスタイルシートは一元管理され、加えてCMSが未導入にもかかわらず、ページデザインの一貫性を保つことに成功している点が特徴的だ。
第2位 東京都 品川区
東京都品川区は、シンプルな使いやすさ、わかりやすさが高評価につながった。
同区では、これまでの運営を通してアクセス数が多いページは「子育て」「学校」「引越し」などの手続き・申請に関連することを把握していた。そこで、特にこれらの情報には「必要な情報に3クリックで到達できる」ことをスローガンに掲げ、情報の設計を徹底している。
昨年からページの管理・更新にはCMSを導入している。
企画部広報広聴課が策定する基本方針にそって運用され、1 日に100 件程度の情報を更新しているほか、イベントカレンダーは10 分ごとに自動更新するなど、運営コストを抑えつつ効率的な情報提供に成功している。
今後は、区民グループの情報サイト作成支援や、ケーブルテレビ事業と連携した情報発信を検討中とのことで、蓄積された情報の効率的な配信を目指している。
第3位 茨城県 ひたちなか市
東京都品川区は、シンプルな使いやすさ、わかりやすさが高評価につながった。
茨城県ひたちなか市は、利用者層の中でもよく閲覧される「転入」「転出」「転居」についての豊富な情報が高い評価となっている。一方で、必要な情報にたどりつくことに苦労するという評価もあり、ナビゲーションや検索性の改善が、今後の課題といえる。
同市では総務部情報政策課が運営を担当。運用面で大きな役割を果たしている嘱託IT指導員は自らが障害者ということもあり、2003 年のサイトリニューアル時からいち早くアクセシビリティについて取り組んできた。
こうした「様々な利用者の状況にあった情報の提示」への取り組みとして、「暮らしの手続き」「ライフイベント」は画面でのレイアウトはもちろんのこと、印刷した際にチェックリストとしても使用できるように工夫されている。
優秀サイト 東京都 渋谷区
東京都渋谷区は、メニューなどのアイコンで画像を使用している他は、テキストが主体のシンプルなページ構成となっている。トップページも「よく利用される情報」などが機能的にまとまっている。半面、トピックスや新着情報は最下部に配置されているなど、情報の表示位置や階層構造についての課題が残る。
また、老人・医療関連の情報量が少ない印象だ。外国人向けのページは網羅的ではあるものの、 日本語版と異なり目的別に情報がまとめられていないことなどが今後の改善点と言えそうだ。
優秀サイト 新潟県 長岡市
新潟県長岡市のサイトはすっきりとしたデザインであるものの、メニュー項目の内容に様々な項目を詰め込みすぎるという指摘があった。「くらし」「観光」「産業」「市政」といったように、ページ上部にメニューがカテゴリー別に表示されている。ところが、頻繁に利用する手続きについての情報が文字リンクのみとなっている。全体的に文字情報の箇条書きという印象を受けるため、アイコンなどで表現を工夫すると、より使いやすいものとなるだろう。
「観光」「産業」「市政」にはスポンサーもついており情報も充実しているだけに、「くらし」情報のより一層の充実が望まれる。
優秀サイト 神奈川県 横浜市 旭区
神奈川県横浜市旭区は、トップページが情報項目に無駄がなく、すっきりとまとまっていて評価が高かった。各種手続きに関しては「窓口案内」としてまとめられ、「ジャンル別検索」「こんなときどうしたらいいの」という、利用状況にあった検索方法が用意されている点も使いやすさを高めている。
一方、「ジャンル別検索」の項目数が多すぎ、「こんなときどうしたらいいの」としてアイコンにまとめられている内容に到達するには、ページのスクロールが必要になっている。情報の分量とそれにあった情報配置を検討していくことで、より分かりやすいWebサイトになっていくことが期待される。
『DESIGN IT! magazine』vol.1の特集「Feature-2」を掲載しています。
トラックバック
このページのトラックバックURL
http://www.designit.jp/mt/mt-tb.cgi/1302