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「ミニマリズム」人気の理由は何か?
2009年7月31日 掲載
「ミニマリズム」とは一体なんだろうか? 今日、なぜ「ミニマリズム」が多くの人々の関心を集めているのだろうか? 私たちが提供するワークショップのなかで断然人気が高いのは「ミニマリズム:使いやすいマニュアルの制作」 [comtech-serv.com] と称する講座だ。事実、私たちは需要に応えるため、3人体制(私自身、ビル・ハッコス、ビル・ギアハート)を組んで、このワークショップの講師役を務めている。このワークショップは、ユーザーへの情報提供のやり方を変革しようとしている発行物制作担当チームに対して、主催社となる企業や社内の関連部署が出資することによって、「お弁当持参」のカジュアルな 形式で実施される。参加するチームメンバーは、自分たちの時間やリソースを「ミニマリスト・アジェンダ(ミニマリストになるための検討課題一覧)」を学ぶために費やすだけでなく、実際に、ミニマリズムの考え方を自分のドキュメンテーション(マニュアルや説明書等の文書類)に導入するための作業を一生懸命に行うことになる。私たちは、アプローチの方向性をはっきりさせるため、過去のワークショップ参加者と定期的に連絡を取り合って、その後どのように作業が進められているかを知らせてもらうことにしている。そこには本当に、驚くべきことがたくさんある!
ワークショップ参加者と CIDM メンバーによるミニマリズムについての議論を通じて、参加者が関心を持つのは次のような理由によることが分かっている。
- 翻訳コストが増大している。翻訳しなければならない文字数全体を減らす必要がある。
- ドキュメンテーション一式のボリュームが大きい。もはや、最新の状態に更新し続けることができていない。
- 以前に比べて、ライターの数が減っている。品質を保持するためには、作り出す文章の量を減らす必要がある。
- 使いにくいマニュアルがありすぎると、顧客が不満を言っている。
- 販売チームや顧客サポートチームの人々によれば、顧客は自分たちが作ったマニュアルを使っていない。違ったやり方が必要だ。
また、ワークショップの参加者は、次のようなことも主張する。
- 自分たちの顧客は特別だ。彼らは情報量が多いことを好み、もっと情報が欲しいと言ってくる。
- 自分たちの製品は極めて複雑で使い方が難しいため、顧客がちゃんと満足するためには、たくさんの説明と教育が必要だ。
- 社内ユーザーや SME(Subject Matter Expert:特定主題に関する専門家)は、製品についてすべてのことを知っておく必要があると強調する。また開発者は、製品を設計してコーディングするための資料が必要だと言う。
- 自分たちは、顧客に必要のない情報が何かを把握できるほど、顧客のことを十分に理解していない。既存のドキュメンテーション一式から、何かを削除してしまうことが怖い。
- 自分たちは「文章差し込み方式」で文書を作っているので、ミニマリズムが適用できない。
- 文章量を減らしてしまうと、もはや自分の存在自体が不要になるのではないかと恐れている。
このように、対極の立場にある複数の見解を具体的に調整すること。それがミニマリスト・アジェンダの目的だ。一方には、企業における経済的な現状がある。そして他方には、ライター、教育担当者、プログラマー、マーケティング担当者、顧客サポート担当スタッフなど、自分自身のニーズを満たしたいと考えている人々の期待や願望がある。最も役に立つミニマリストからの回答は、恐らく、この中間に置かれるものとなるだろう。
ミニマリストの現状
1日の就業中に、長い文章を読む時間はどれくらいあるのだろうか。私はたびたび、自分が講師となるワークショップでこの質問を問いかける。答えはたいてい、「ゼロ」か「そんな時間はほとんどない」だ。実際には、ワークショップ参加者は製品に関する電子メール、テクニカルブログ、情報源となるコンテンツについてはすべて読むが、技術的なテーマや情報開発に関する記事には、時折目を通す程度に違いない。何人かは、DTPツールやコンテンツマネジメントシステム(CMS)など、自分が使う製品についての説明書を読んでいる。そして多くの人々が、説明書が使いにくいこと、必要な情報を探すのが難しいこと、内容面の品質が悪いことにいらいらして失望する。ソフトウェア関連の疑問に対する回答を見つけるためにかかる時間について、大いに憤慨している。
顧客も、ワークショップ参加者とまったく同じような経験や見解を持っているのが現実だ。よほど重要な場面でない限り、顧客だって就業中にじっくり読む時間は持てない。彼らは、自分の仕事上で重要な情報にアクセスしにくいことにイライラしている。自分のタスク(作業課題や職務)を遂行するために重要な部分だけを読んで、仕事で使用する製品について問題解決をしたい。長い文章(私の定義でいえば、1ページ以上は「長い」ことになる)を、本当にすべて読みたい場合は、家に持ち帰って読む。そんな時でさえも、家族や友人を優先したい場合は、その長い文章を脇に置いてしまうかもしれない。 不幸にも、現代の職場では文章を読む時間が不足している。ミニマリズムが、これまでよりも一層重要になっているということなのだ。
ミニマリスト・アジェンダ
確かに、文章量を減らして総文字数を少なくすることが望ましい結果ではあるが、それがミニマリスト・アジェンダの核心なのではない。ミニマリスト提唱者は、人々は文章を読みたがらず、実際に、自分にとって差し迫った目的をかなえてくれそうなものでなければ、何も読まないということを理解している。事実、より短くて端的な文章のほうが、好んで読まれる傾向にあるだろう。
ミニマリスト・アジェンダは、実用性と有用性にフォーカスを当てる。このアジェンダには、次の4つの基本原則が含まれる。
- 職場では、人々はタスクの遂行や目的達成に集中している。人々は、可能な限り時機を得た状態で職務を終えることができる情報を求めている。それ自体が何であるかを知るためというよりは、仕事のために何かをするということに集中する。
- 自分の目的、タスク、仕事環境といった文脈で情報が存在するのが好ましい。直接的に、目的達成の方法を教えてくれる情報を見つけることができれば、それは、複数の異なる情報から推測しなければならない状態よりも非常に喜ばしいことに感じる。現実的なシナリオと、そのシナリオのゴールが達成される最良の方法を求めている。自分のタスクを最善の方法で完了できるようなヒント、TIPS、裏技などが好まれる。
- 人々は、問題解決に沿った情報を好む。なぜなら、解決すべき問題があるとき、あるいは、何かが予想外に悪い状態にあるときに情報を探すことが多いからだ。よくある製品相談のメーリングリストを見ると、人々が、予想外の結果やお手上げの状態から救出してくれる情報を探していることがわかる。実際に、公式なドキュメンテーションの中に必要な情報がなかったり、それを見つけられないので、自分が抱える問題を解決できるような策を持っている「個人」を探すのである。
- 問題解決を支援し、最終ゴールまでのより良い経路を提示してくれるような情報を簡単かつ速やかに探せないときに、人々は失望する。そんなときには、よく、電子メールやメーリングリスト、電話などを使って社内外の誰かに聞いてみたくなる。そして、人々は時折、マニュアルやWebサイトを見ても情報を探せなかったことについて報告し合う。または、探し出した情報が不完全であったり、製品を利用する上で発生することについての十分な洞察がないままに情報が提供されていることを報告し合う。
手短に言うと、ミニマリストの4原則は次のようなものとなる。
- 「知る」ことよりも、「する」ことを重視する。
- ユーザーの職務環境に合った情報に文脈を持たせる。
- トラブル、および問題の解決に焦点を当てる。
- 何よりも、簡単かつ速やかに情報にアクセスできることを保証する。
いま現在、こういったことの一部、またはすべてを実現することは簡単でない。実現するには、自分が作るドキュメントの読者が誰であり、その人たちが何をしようとしているのかを熟知することが必須となる。だから、ミニマリズムは、常にユーザー分析とタスク分析から始まる。その出発点を考えると、私たちが提供するユーザー分析ワークショップやタスク分析ワークショップへの関心が低いことに戸惑いを覚える。人々は、苦労して時間をかけて自分の顧客について「知る」より、膨大で使えないドキュメンテーションの問題を、さっさと簡単に解決したいのだろう。しかし、ユーザーやそのタスクについての理解なしでは、ミニマリズムは、単に文章を短くしたり、「このマニュアルについて」というセクションは誰も読まないので削除する、といった方向に歪められてしまう。
ミニマリズムの実践
『Minimalism Beyond the Nurnberg Funnel』 [amazon.com](1998 年に MIT Press によって発行された、ミニマリズム専門家による論文集)の中にもあるように、ミニマリズムのワークショップは良い出発点になる。このワークショップでは、短いセッションの中で自分自身が作るマニュアルを用いて、同僚と一緒に「ミニマリストチェックリスト」を通じて作業する。その結果、すぐに対応できるような、具体的な修正点をたくさん持ち帰ることができる。ワークショップの数週後または数ヵ月後に、参加者が「修正前」「修正後」の事例を報告してくれることも頻繁にある。組織内でワークショップを行なえば、チームメンバー全員で自分たちのミニマリズム計画策定に取り組むことができる。
もうひとつ実行すべき重要なことは、顧客の職場を訪問し、日常的にどのようにして情報を使っているのか議論して、彼らが解決しようとしている問題をもっと理解することだ。顧客を直接観察する以外に良い方法は何もないが、たとえ少しでも顧客と会って話す機会を持つことを忘れてはいけない。『User and Task Analysis for Information Design』 [comtech-serv.com] ワークショップは、自分の顧客について学ぶための計画策定に役立つ。『User and Task Analysis for Interface Design』 [comtech-serv.com] は、ユーザー観察を計画し、実施し、その結果を分析するやり方について、段階的な説明を提供している。
この記事の原文「What Makes Minimalism So Popular Today?」は、 CIDM Information Management News letter 2008年1月号 [infomanagementcenter.com] に掲載された。
本サイトに掲載している記事は、著者の許可を得て、翻訳・転載しているものです。
関連サイト
- CIDM:Center for Information-Development Management [infomanagementcenter.com]