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セミナー&ワークショップレポート
2009年9月18日 掲載
2009年8月27日から2日間にわたって開催された「DESIGN IT! Forum 2009 - 企業情報の構造改革:DITA-XML-CMSによるコンテンツマネジメント戦略 -」特別編として、翌29日に「アジャイルUCD セミナー&ワークショップ:アジャイルUCD -アジャイル開発プロセスを活用したユーザー中心設計」が開催されました。そのレポートをお届けします。
第1部(セミナー)「アジャイル UCD」の原則と概要、事例紹介
講師のジョアン・ハッコス氏
アジャイル UCD(User Centered Design:ユーザー中心設計)とは、開発者とユーザーがパートナーシップを組み、ユーザーにとって使いやすい、高品質なソフトウェアを速やかに提供するための開発手法。第1部のセミナーは「アジャイル UCD で常に意識しておくべき原則」の解説から始まりました。その中で特に配慮すべきこととしては、次のようなポイントが紹介されています。
- 目的:プロダクトを迅速に作ることに加え、利用者にとって「きちんと動作する」ものを開発することが最大の目的。
- チーム編成:能力があって熟練した、スピード感を持つ個人を集めたチームを発足することから着手する。個人の役割は様々だが、共通して他人の意見を尊重でき、革新的なデザインのアイデアを出しながら、自己組織化を可能にするチームの構成が重要。
- ユーザー中心:UCD のコンセプトどおり、ユーザーを中心においた取り組みとして終始一貫しながら、短期の開発サイクルを繰り返し行う。ユーザーの要求が変化していくことや失敗を恐れず、それを次のサイクルに活かしていこうとする柔軟な姿勢が必要。
- 成功の測定:段階的に製品を開発し、レビューしていくため、成功の度合いを測りやすくすることが必須。
続いて、講師であるジョアン・ハッコス氏自身の実践例として、米国の退役軍人病院にて行われた電子カルテシステムの開発経緯(プロトタイプの遷移)のデモが行われました。このプロジェクトでは、技術者やデザイナーだけでなく、病院の管理者、医者や看護士たちが参加。週に一度はレビューやユーザビリティテストの実施が繰り返されたこと、現物のプロダクトが洗練されていく様子を見ることができるため、多忙なユーザーが、開発チームのメンバーも驚くほど積極的に関与したことが強調されました。
第2部(ワークショップ)
ワークショップの時間は、DESIGN IT!, LLC 代表の篠原稔和が解説者を担当。ジョアン・ハッコス氏と参加者とのやりとりを仲介しながら進行しました。5名ほどからなるグループを編成して座席換えが行われ、「アジャイル UCD を取り入れる場合、すでに取り入れている場合の課題や障壁」についての検討から始まりました。グループワークの中心は、ポストイットと模造紙を用いた「抽出された課題の優先順位付け、解決策策定」。初対面の方が多いなか、和気あいあいとしたムードで積極的に意見交換を行うにぎやかな時間となりました。
プレゼンテーションの時間では、「エバンジェリストやキーパーソンの存在」「顧客を含めたコミュニケーション」「ゴールの示し方」「プロセス上の工夫」「コスト問題」など、様々なストーリーに裏づけされた問題点と解決策がそれぞれのグループから発表され、短時間ながらも充実したワークの成果共有が行われました。 ジョアン・ハッコス氏の総評としては、「リーダーシップの存在」「良いプロジェクトマネジメント」「正しいユーザーを選定して取り組む」といった重要なポイントを逃さずに検討した点はすばらしい、もっと時間があればよりよい経験につながったに違いない、とのメッセージが寄せられました。
グループワークの様子
模造紙とポストイットによる成果物の一例
第3部(セミナー)アジャイル開発の方法論
後半のセミナーは、アジャイル開発手法の1つである「スクラム」の解説が中心。スクラムとは、もっとも短期間で、もっとも高い価値をお客様に提供することを目的にした開発プロセスであり、一般的には2~4週間の開発サイクルを繰り返しながらプロダクトを洗練させていく手法。スクラム開発を実現するためのチーム編成やメンバーの個々の役割について解説が行われた後、毎日15分程度の時間を確保し、ミーティングを(立ったままで)実施して進捗や問題点を共有していく「スクラムミーティング」のほか、スクラム開発の特徴である「スプリント」「プロダクトバックログ」「スプリントバックログ」「スプリントレビュー」といった独自用語を用いてプロセスの説明が行われました。
アジャイル UCD は、米国でもようやく多くの企業が導入し始めた状態で、現地でのワークショップも最近開始されたばかりとのこと。ジョアン・ハッコス氏から参加者に向けた言葉として、「日本でのこの時間は、私自身にとっても貴重な経験になりました。皆さん、ユーザーのことを忘れないで取り組んでいきましょう」と総括いただきました。