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フォーラムレポート

2009年9月17日 掲載

2009年8月27日(木)~28日(金)に開催された、DESIGN IT! Forum 2009「企業情報の構造改革:DITA-XML-CMSによるコンテンツマネジメント戦略」のレポートをお届けします。

8月27日(木曜日)

[セッション-1] DITA(The Darwin Information Typing Architecture) - エンタープライズパブリッシングの実践 -


27日 ジョアン・ハッコス氏の講演の様子

Forum 最初のセッションは、メインスピーカーのジョアン・ハッコス氏により、DITA についての包括的な解説が行われました。ポイントは、DITA は XML ベースのオーサリングを行う優れたツールというだけではなく、ビジネス要因やビジネス戦略面に着目したコンテンツ制作、管理、運用上の問題解決ソリューションの1つであるという点。DITA の設計原理であり、その思想を反映する要素でもある「トピック」「情報タイプ」「マップ」「ドメイン」といった用語について、概念と実用性を紹介。また、実際の情報開発プロセス例を交えながら、ソースコンテンツを一元管理して複数のアウトプットを生産することで、製品のライフサイクル全般にわたるコストと時間の削減ができ、最終的には顧客に質の高い情報を配布できることが説明されました。


[セッション-2] 松明は引き継がれるか? - DITAによる情報デザイン戦略 -

DITA コンソーシアムの加藤氏による講演では、「コンテンツとは何か」という基本的な説明に加え「どのような観点から DITA が必要になってくるのか、DITA を用いた情報デザイン戦略とは一体何か」という点が、分かりやすいメタファーや事例ともに解説されました。コンテンツ管理は単なる文書管理とは本質的に違い、創造性ではなく実用性や検索性を確保し、一定品質のコンテンツを誰でも作成できるようにすることが目的。そのためには、業務のフローや性質を分析した結果を文章のアーキテクチャに落とし込み、「鋳型」を作っていく工程が不可欠であると強調されました。また、日本の歴史的な文章に対し、DITA エディタを用いて文章構造を定義していく興味深い実演も行われました。

[セッション-3] STC Technical Communication Summit に見るコンテンツマネジメントの動向

STC(Society for Technical Communication)は、テクニカルコミュニケーション分野で最大規模を誇る歴史ある専門家団体。その東京支部理事長である鈴木氏による講演では、STC 最大のイベントである Technical Summit での発表事例を独自に分析した海外動向の報告が行われました。ここ数年の傾向としては、特定テーマについて、概念から実践へ、手法紹介から事例紹介・導入プロセス・導入効果の紹介へといった流れに沿った発表内容の推移が顕著であること、2009 年には DITA と深い相関を持ちながら Structured Authoring(構造化オーサリング)関連の発表が増加していること、日本国内の動向も欧米諸国の後追いのかたちをとりながら追随していくであろうことなどが、分析手法の説明とともに解説されました。

[セッション-4] グローバル・コンテンツ・ライフサイクル – 全世界の顧客を対象としたドキュメントの作成の最適化、管理、翻訳、パブリッシュをおこなうためのグローバル情報管理の実現方法


27日 会場の様子

グローバル情報管理(GIM:Global Information Management)のためのソリューション提供や導入支援事業を展開、豊富な実績を誇る SDL 社。同社のクライブ・トーマス氏による講演テーマは「グローバルコンテンツ管理の課題」。多言語に翻訳され、世界規模で行われるコンテンツ管理の実践事例に基づいて、同社の取り組みが紹介されました。GIM の基本は、DITA 標準などに即した XML ベースのオーサリングとダイナミックなパブリッシュにあり、短いライフサイクルの中で一定品質を確保してコンテンツの再利用を保証するためには、情報利用者が持つ文脈を分析し、コンテンツ構造と管理形態の構築に活かすことが必須であると提言しました。


[パネルディスカッション] 変革の夏!「DITA&コンテンツマネジメント」から始まる企業情報の構造改革

Forum 1日目の最後に設けられたパネルディスカッションは、オブジェクトテクノロジー研究所の鎌田代表をモデレータに迎え、ジョアン・ハッコス氏ほか当日のスピーカーが集結して開催されました。鎌田氏は 1980年代より、情報・出版・コンテンツといった要素を対象にしたビジネスに取り組んできた経緯を持つ人物。冒頭では「意味と構造の時代からITと標準の時代へ、さらにモデリングの時代を経て現在至る」という分析的知見を交えた自己紹介とともに、ドキュメント管理やコンテンツ管理が持つ永遠の課題を提起、それをきっかけに議論が展開されました。会場からの声としてあがった「DITA の概念は分かるが、具体的にはどのように複数企業に浸透していくのがベストか」という質問には、「まずは DITA を採用しているドキュメントを変更する作業を通じて、理解を促すとよい」といった建設的な意見がパネラーより複数示され、国内市場における今後の DITA のあり方を占う展望につながりました。

8月28日(金曜日)

[セッション-5] "情報をマネージする"ということ - 顧客の利益のために

本講演でジョアン・ハッコス氏が取り上げたのは、「情報やコンテンツをバランスよくミニマイズされたやり方で管理・運用することで、顧客の利益をもたらす」というテーマ。そのためのビジョンの描き方、プロセス構築手法、計画などが実例を交えて丁寧に解説されました。特に企業においては、従業員の満足(スキルの習得、作業効率化)、顧客の満足(必要な情報の入手、製品の使い勝手向上)、経営者の満足(収益増加)の3つすべての実現を目標にするべきであり、それは「実現可能で人に伝えやすいビジョン」を描くことから始まることを強調。セッションの最後ではスピーカーから会場に向けて「あなたのビジョンは何ですか?」という問いかけがあり、来場者を含めた活発な議論も繰り広げられました。

[セッション-6] 国内370社の企業が選んだ「NOREN」~その理由と目指すもの~

アシスト社の橋本氏による当イベントの講演は、2005 年に続いて2度目。今回は国内 CMS 導入の最新動向を振り返りながら、改めて「コンテンツマネジメント、CMS とは何か」を問う内容となりました。企業に CMS を導入、実際にサイトの標準化からIAの整備と確立、コンテンツ管理と運用に至るまでの支援を行ってきた経験に基づく見解として、コンテンツマネジメントとは、Web 側の人間とIT側の人間がクロスして取り組んでいかなければならないテーマであり、テクノロジーではなく人間的なプロセスである点、CMS を導入して表面的に満足するだけでなく、導入後の運用で何を得るかが重要課題である点などを指摘しました。

[セッション-7] 情報をマネジメントするウェブサービス

ソシオメディア社は、Web アプリケーションやシステムの評価・ユーザーインタフェース設計等を行うデザインコンサルティングファーム。本講演では、同社のシニアコンサルタント川添氏が、情報マネジメントのとらえ方を「ウェブサービス(Twitter)」「メディア(新聞)」「ウェブアプリケーション(コールセンター支援システム)」という3つの観点から分析。それぞれの特性の違いや時代の変遷を解説しながら、今後あるべき情報マネジメントの方向性を考察しました。また、多様なドキュメントを活用するためには、利用者のコンテキストに適合されたフローとコンテンツコンポーネントの組み合わせが重要であり、データとコンテキストをモデル化し「鋳型」を作成してはじめて、そこに格納されるコンテンツが(再)活用できるという考え方を提示しました。

[セッション-8] Web Meister はなぜXML CMSとしてオンリーワンの存在なのか

Web サイトの制作・構築・運用全般に加え、今回の講演で紹介されたソフトウェア「Web Meister」の開発・販売を行うサイズ社。代表取締役の糟谷氏は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの Web サイト構築を手がけた人物。W3C 仕様への完全準拠がミッションであり、XML に基づくアーキテクチャの利用が大前提だったというシビアなプロジェクトの背景とその実現プロセス、テクニックなどを紹介いただきました。また、XML を用いてモジュール(個別トピック)単位でコンテンツを管理する Web Meister のアプローチは DITA が持つ概念とも親和性が高く、将来的にはセマンティック Web の実現にも直接的につながるものであると解説。さらに同製品のユーザーインタフェース設計を担当した山本氏により、「マニュアルを必要としない操作性」に向けた開発時の工夫やエディット機能の実演が紹介されました。

[セッション-9] CMS+IA=情報を貯めて勝つためのアプローチとライフハック

楽天の清水氏は、長年にわたって様々な側面から Web サイトの開発・運用に深く関わってきた経験に基づき、Web CMS との向き合い方、Web コンテンツの位置づけ、目標に向けた取り組み手法などを軽快な切り口で紹介しました。「引越し」「賞味期限」「図書館」といった分かりやすい例や豊富なヒントも引用しながら、コンテンツとは何か、それを管理するには何が重要か、個人や組織や日常的に情報整理やコンテンツ管理のスキル・体制を身につけるためにはどんな工夫が必要かといった課題について解説。また、組織内にある多様で大量なコンテンツをクリーンな状態に保つには、プロセス構築と日々の管理が重要であり、それらを「育てる」過程も必要であると提言しました。

[パネルディスカッション] 徹底討論!「DITA-XML-CMS」によるコンテンツマネジメント戦略の実践手法


28日 パネルディスカッションの様子

今回の Forum を締めくくるパネルディスカッションのモデレータは、国内のテクニカルコミュニケーション分野の発展に長く貢献してきたハーティネス社代表の高橋氏。当日登壇されたスピーカーに加え、来場者を交えた議論が展開されました。今回はじめて DITA の存在を知り、勉強を開始する契機を迎えたというパネラーは、独自の視点と言葉を用いて新たに学習した「教訓」を披露。複数の専門家の知見に基づく有意義な意見交換が行われました。また、ディスカッションの後半で会場から提起された「コンテンツ作成者自身が、文章構造化の意味的メリットと直接的な効果を共有し、モチベーションを維持するための手法は?」という疑問に対して、ジョアン・ハッコス氏はじめパネラー全員による、様々な事例を引用したアドバイスや TIPS、コンテンツマネジメントについての今後の展望などが示され、2日間にわたる Forum を総括につながりました。