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サイコグラフィックでユーザーを最適分類

2009年12月10日 掲載

[セッション-2] サイコグラフィックにもとづく新しいUX

講演者 河田 勉(株式会社 U'eyes Design 取締役/工学博士/情報電子通信学会 フェロー)

マーケティング分野では、心理的特性から顧客を分類する「サイコグラフィック分析」が注目される。U'eyes Design 取締役の河田勉氏は「サイコグラフィックにもとづく新しいUX」として、同社が開発した「人のモノ・コトの関わり方尺度」サービスを紹介した。各テーマに合わせて簡単にサイコグラフィック分析を実施するための尺度(設問)を提供するものだ。コンテンツからデザインまでユーザーごとに最適なUXを提供するのにも役立つだろう。

態度や関与を浮き彫りにする尺度


河田勉氏の講演の様子

 人の価値観が多様化した現在、年齢や性別・職業などのデモグラフィック属性では有意なセグメント分析は難しいと言われる。そこで登場してきたのが、サイコグラフィック属性(心理特性)および行動変数で分析する手法である。適切なUXを提供するという観点でも注目度は高まっている。

 U'eyes Design の河田氏は冒頭、「サイコグラフィックな尺度を使えば、広告展開の最適化や、より正確な購買予測が可能になるのではないか、と考えている」とし、同社がサービス提供を行っている「人とモノ・コトの関わり方尺度[ueyesdesign.co.jp]について解説していった。

 同サービスは、対象者のあるテーマに対する態度や関与の仕方を図る“尺度”を提供する。これまでも Web 上の行動履歴からユーザーの好みや関心を推測し、それに適した情報を配信する「行動ターゲティング」「レコメンド」といった手法はあった。これに対して、河田氏は「我々の尺度は、その人のテーマごとの“基本的な態度”に注目する。“柔らかな”レコメンドを可能にするもの」と説明する。

10問程度の設問がテーマ標準の尺度


河田勉氏の講演の様子

 では、どのようにテーマごとの尺度を作成、活用するのか。次のようなプロセスになる。

  1. テーマごと4段階で回答可能な設問を網羅的に設計
  2. その質問項目で U'eyes Design のモニター会員に対し Web アンケートを実行(回答数は1テーマ当たり数百名)
  3. アンケート結果に対し、同社独自ツールにより統計解析の因子分析・クラスター分析を実施
  4. サイコグラフィック特性および行動変数を見い出す代表質問を抽出し、いくつかのセグメントを定義
  5. 代表設問に回答した対象者をセグメントに分類
 つまり、10問程度の代表設問こそがテーマごとの尺度となる。河田氏は同社が提供する「人とエコの関わり方尺度[ueyesdesign.co.jp]を具体例として紹介した。



第1因子:食べ残しをすることに抵抗を感じる
第2因子:節電を心掛けている
 ⼁ 
第10因子:ビオトープの意味を知っている
第11因子:周りの目がなければ、エコへの意識や取り組みはしないかもしれない

 これが「人とエコの関わり方尺度」となる代表設問だ。対象者は各設問に「あてはまる」から「まったくあてはまらない」までの4段階で答える。その回答結果を集計すると、以下の通り7グループに分けられる。



G1:社会派・エコロジスト
G2:エコノミー・エコロジスト
 ⼁ 
G6:ツラレ・エコロジスト
G7:アンチ・エコロジスト

 G1層は、自身の問題意識の高さから積極的に環境保護を実践、G2層は実利的な面から省エネなどに取り組む、一方、G6層は世間の目を意識して取り組んでいる、G7層はエコにまつわる言動を懐疑しているとなる。対象者のエコに対する態度や関与の仕方が浮き彫りになるわけだ。

 このサイコグラフィック分析は精度も高い。河田氏によれば、「エコ」「健康」「デジタルテレビ」「温泉旅行」の各テーマで分析した対象者に対し、「分類先が自分に合致していると思うか」とたずねたところ、どれも80%前後の対象者より、合致しているとの回答を得たという。年齢別や性別で見ても、合致率に大きな違いはないという。

 なお河田氏は「分析精度を決めるのは、最初の網羅的な設問。この設計に1週間はかける。また、作成した尺度は実験で精度を確かめてから提供している」と話す。

UXを最適化するためのツールにも

 河田氏は「人とモノ・コトの関わり方尺度」の利点は、「サイコグラフィック分析の実施には、通常40~50問への回答が必要となり、回答者から見るとハードルが高いが、10問程度なら答えてもらえやすい。携帯メールをはじめとする様々な手段、メディアでアンケートが可能」とした。

 さらに、この尺度でセグメント分析した結果は、様々なマーケティング活動や商品企画で使えるとする。例えば、U'eyes Design が企業に提案している活用法には「レコメンド(LPO)型」と「広告型」がある。前者はEコマース業者向けで、Web サイトを訪れる顧客のセグメントに応じて表示コンテンツを動的に変える。後者は数十万規模の会員を抱える企業に対してのもので、セグメントに応じて発送する広告の内容を変えるわけだ。

 前述した「人とエコの関わり方尺度」によるセグメントで言えば、社会派・エコロジストのG1層には、社会メッセージ色の強い表現、エコノミー・エコロジストのG2層なら、エコポイントやエコカー減税などで“お得感”を前面に出した表現となる。「デモグラフィック属性によるセグメントに比べ、対象者の行動パターンによりマッチしたレコメンド、広告が展開可能であり、デモグラフィック分析と組み合わせれば、精度はさらに増す」という。
 「人とモノ・コトの関わり方尺度」はUXという観点からも有効だろう。コンテンツだけでなく、色やデザインに関する尺度でユーザーを分類しておけば、クロスセグメントで最適なUXを提供できるだろう。

 河田氏は講演の最後に「既にいくつものテーマで尺度を作成しているが、“ネットショッピング”や“恋愛”など新しい尺度を続々作成している。いくつかの尺度は当社のサイトからダウンロードして自由に使えるので、気軽に試してほしい」と訴えた。10問程度の設問で特定テーマに対する態度や関与の仕方を明らかにする。これは注目されそうだ。

(編集部)